事情も立場もいろいろあるが、彼女を救えないなら意味がない。――8

「残念だったな」


 嘲笑うデュラハンの声と同時、ピピがまとっていた新緑色のオーラが消失する。


 タイムオーバーによる無敵化の解除。


 そこに迫るシュシュの尻尾。


「避けろ、ピピ――――っ!!」


 俺が叫ぶも遅すぎた。


 シュシュの尻尾が巨大なむちとなり、無防備なピピを叩き落とした。


「あぐっ!!」


 地面に叩きつけられ、ピピが苦悶くもんあえぐ。その体が縮み、人型に戻っていった。


「「「ピピ(さん)!!」」」

「動くな」


 駆けよろうとした俺たちを牽制けんせいするように、デュラハンが、ピピに大剣を突きつける。


「動けば、スィームルグの命はない」

「「「く……っ」」」


 悔しさに歯噛みする俺たちを一瞥いちべつし、デュラハンが「ククッ」とほくそ笑んだ。


「小僧、貴様は『使役』スキルの保有者だったな」

「だったらどうした?」

「神獣を『使役』するなど、本来ならあり得ぬ。このスィームルグは、よほど貴様を好いているのだろう」


 ならば、


「我に奪われれば、貴様は相当、こたえるだろう?」


 デュラハンの狙いを悟り、俺の全身から血の気が引いた。


 デュラハンが、ピピに左手を向ける。


「よせ! 止めろ!!」

「『隷属』」


 俺が叫ぶも、デュラハンは容赦なく『隷属』スキルを発動した。


 デュラハンの左手から何本もの鎖が伸び、ピピの首元に絡みつく。


「う……くぅっ!」

「さあ、我が所有物ものとなるがよい!」


 デュラハンが鎖を握りしめた。


 絶望が俺を襲う。


 ピピがデュラハンに『支配』されてしまう……また止められなかった……俺はなんて無力なんだ……!!


 悔しくて悔しくて、俺は固く目を瞑った。


「負け……ない!!」


 俺の耳に、抵抗の言葉が届く。


 ハッとして目を開けると、ピピが歯を食いしばり、首元の鎖に、小翼羽しょうよくう(人間の、親指の先にあたる部分)を引っ掛けていた。


「ピピの、ご主人さまは、パパ、だけ!! お前のものになんか、なら、ない!!」


 ピピが叫び、鎖を引き千切る。


「なっ!?」と、デュラハンが動揺した。


「なぜ、我の『隷属』スキルに逆らえる!?」


 デュラハンと同じく、俺も呆然としていた。


 デュラハンの『隷属』スキルは、直接手を下せば、神獣すらも支配できる、恐るべきスキルだ。


 シュシュ同様、ピピも逆らえないはずなのに、どうして抵抗できたんだ?


 驚いている俺の視界に、淡い光が映り込んだ。


 見ると、左手の『使役』スキルの紋章が、輝きを放っている。


 その輝きを目にして、俺は呟く。


「俺の、『使役』スキルの影響か?」

「なにを言う! Fランクスキル如きが、我の『隷属』スキルを防げるものか!!」


 俺の呟きを耳にして、デュラハンが声を張り上げた。


 だが、そうとしか考えられない。


 俺は紋章の輝きを見つめながら、思い出す。


 クゥ、ミア、ピピを『使役』できたのは、三人が、俺を全力で慕ってくれているからだ。


 たしかに、『使役』スキルだけでは『隷属』スキルに敵わないだろう。


 それでも勝ったということは、俺とピピとのあいだに、『隷属』スキルを超える


『なにか』があったということだ。


 つまり――


「ピピの『想い』が『使役』スキルを高めた――俺とピピの『絆』が、『隷属』スキルに勝ったんだ!」

「バカな……!」


 愕然がくぜんとするデュラハン。


 その隙を突いて、ピピが蹴りを放つ。


「やあぁああああああっ!!」

「ぐおっ!?」


 動転していたデュラハンは、ピピの蹴りをまともに食らい、尻餅をつく。


 デュラハンが尻餅をついているあいだに、ピピは飛び立ち、俺たちのもとまで戻ってきた。

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