彼女には裏があったが、それでも俺は見捨てない。――7

「ゴメンなさい、主さま……め、迷惑をお掛けして、ほ、本当に、ゴメンなさい……!」


 あまりある怒りに拳を握りしめていると、シュシュがかすれた声で懺悔してきた。


 ヒック、ヒック、としゃくり上げながら、シュシュはボロボロと涙をこぼす。


「あ、あたし、主さまに恩返ししたくて、転生したのに、ぜ、全然、お役に立ててない……! そ、それどころか、ひ、ひどいこと、しようと、してる……!」


 自分を責めるシュシュの姿は痛ましくて、見ているだけで、こちらの胸が締めつけられるほどだった。


「あ、あたし、転生なんて、しないほうが、よかった……! て、天国で、ずっとずっと、眠っていたほうが、よかった……! あたし、なんか、い、いないほうが、いいんです……!!」


 血を吐くようなシュシュの告白。


 俺は胸をきむしりたくなる衝動とともに、共感を覚えた。


 似ている。シュシュは、むかしの俺にそっくりだ。


 俺もシュシュと同じように、転生しないほうがよかったとなげいていた。


 王国騎士団に入団する夢が破れ、今回も挫折ざせつだらけの人生になると絶望していた。


 だから、シュシュの気持ちが、よくわかる。


 苦しいよな、シュシュ。期待していたことが叶わなかったら、泣きたくなるほど悲しいよな。


 それに、シュシュの苦悩はそれだけじゃない。


 俺に恩返ししたいけど、デュラハンに『隷属』されていて、できない。そのうえ、デュラハンの命令に逆らえず、やりたくもないことを強要されている。


 シュシュは俺をしたってくれている。シュシュは誰かを傷つけたくない。


 シュシュは優しい。優しいから、ツラいんだ。


 だけどね、シュシュ? そんなに自分を責めなくて、いいんだよ?


 握りしめていた拳をほどき、俺はそっとシュシュの肩に手を置く。


 シュシュの体がビクリと震えた。


「俺もそうだったよ、シュシュ。転生なんてしないほうがよかったって、死にたくなるくらいツラかったときがあった」

「主、さま……?」


 おそるおそる顔を上げたシュシュを、俺は穏やかな瞳で見つめる。


「けど、クゥが救ってくれた。俺の人生を認めてくれた。俺のために泣いてくれた。だから俺は、立ち直ることができたんだ」


 それだけじゃない。


「いまでは、ミアが支えてくれる。ピピが元気をくれる。みんなに助けられて、俺は生きているんだ」


 そして、


「シュシュも、俺に恩返しにきてくれた」


 シュシュがサファイアの瞳を見開いた。


 俺は思う。


 もし、悲嘆にくれていたころあのころの俺と再会していたら、きっと、シュシュは救ってくれていただろうと。俺の人生を認め、俺のために泣いてくれていただろうと。


 だから、シュシュが苦しんでいるなら、俺が救おう。


 クゥに、ミアに、ピピにもらった温もりを、シュシュにお裾分すそわけしよう。


 今度は、俺の番だ。


「シュシュ、きみもみんなと同じだ。俺が苦しんでいたら、きっとシュシュは救ってくれただろう。それだけで充分だ。その優しさだけで、俺は幸せだよ」


 シュシュの目元を優しくぬぐう。


「シュシュの選択は間違ってなんかいない。シュシュと再会できて、俺はスゴく嬉しいんだから」

「いいの、ですか? あ、あたし、全然、お役に立てて、ないのに……?」

「クエストを手伝ってくれただろう? 『刺客』から守ってくれただろう? 俺はもらいすぎているくらいだよ。役に立ってないことなんてない」


 それに、


「シュシュがなにもできなかったとしても、それでも俺には感謝しかないよ。シュシュは、俺のために転生してくれたんだから」

「あ、あたし、転生して、よかったですか? ここにいて、いい、ですか……!?」


 すがりつくような目をするシュシュを、俺は包み込むように抱きしめた。


「もちろんだよ、シュシュ。転生してくれて、ありがとう」


 シュシュが俺の背中に腕を回す。


「う……うぁ……っ」


 俺の腕のなかで、シュシュがわんわんと泣きじゃくりはじめた。


 俺はシュシュを一層強く抱きしめる。


 ――ここにいてもいいんだよ。


 そんな想いが伝わるように。

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