彼女には裏があったが、それでも俺は見捨てない。――2

 ラウルの頼みを引き受けてから、俺たちは一旦、ポッサの騎士団の、詰所つめしょへと向かった。


 ブルート王国の王国騎士団とともに、ワンとフィナルの抗争を収めるために訪れたと説明すると、ポッサの騎士団はこころよく協力してくれた。


 しかし、


「有力な情報は、得られずじまいか……」


 捕らえた三人の冒険者は、いずれもだんまりを決め込んでいるとのことで、解決の糸口はつかめなかった。


 ポッサの通りを歩きながら、俺たちは相談をはじめる。


「参ったな……これからどうしようか?」

「そういえば、シルバさま? 王国騎士団のほうでも、『刺客』をひとり捕らえていましたよね?」


 俺が腕組みして悩んでいると、ミアが人差し指を立てながら意見してきた。


「あちらの『刺客』も、わたしたちが捕らえた三人の冒険者同様、相当な手練れだったようです。三人組の冒険者と、共通する部分が多いと思われませんか?」

「なるほど、たしかにそうだね」


 ミアの指摘を受けて、俺はひとつの仮説を立てる。


「――『刺客』たちは加害者ではなく、被害者なのかもしれない」

「どういうこと? ご主人さま」


 クゥがコテンと首をかしげた。


「思い出してごらん、クゥ。ラウルは、『元パーティーメンバーは、気さくでお人好ひとよしで、間違っても、ひとを傷つけるなんてあり得ない』って言っていたよね?」


 クゥが「うん」と頷く。


「そして、ポッサの騎士団、及び、シェイラさんの話によると、いずれの『刺客』も黙秘を続けているらしい。加えて、それぞれの村に現れた『刺客』たちは、『自分たちが報復に来た』ことを明かしている」


 だとしたら、こう考えられない?


「『刺客』たちは何者かに支配され、駒として扱われているって」


 俺の仮説を聞いて、「そうですね」とミアが賛同する。


「わたしもシルバさまと同じ意見です。ラウルさんのお仲間は、黒幕の手によって性格を変えられた――精神を操作されていることも考えられるでしょう」


 俺の話をミアが要約すると、クゥが、ポン、と手を打った。


「そっか、支配されているとしたら、『刺客』がなにも喋らないのも、報復に来たってバラしたのも説明できるね」

「黒幕が、『刺客』たちに指示していた、から?」

「うん。その通り」


 どうやらクゥとピピも、理解が追いついたようだ。


「黒幕の目的は抗争の激化。そのために、支配した冒険者たちを『刺客』とし、それぞれの村に送りこんで、けているんだ」


 俺が話をまとめると、三人は真剣な顔付きになった。


「でも、どうやって確かめるの?」

「少なくとも、わたしたちには確認するすべがありませんね」

「だったら、ほかのひとに、頼る?」


 クゥが疑問し、ミアが思案し、ピピが代替案を挙げる。


 俺は頷いて、次にとるべき行動を、三人に伝えた。


「一旦、王国騎士団と合流して、情報を共有しよう。王国騎士団に、『刺客』になんらかの異常がないか、調べられるひとがいるかもしれないしね」




     ○  ○  ○




 夕空の下、王国騎士団の天幕テントのなか。


「黒幕が『刺客』たちを支配している、か――随分ときな臭くなってきたね」


 俺たちの話を聞いたシェイラさんが、下唇に指を添え、眉をひそめた。


「ええ。そしておそらく、黒幕は魔王軍です。今回の抗争は、魔王軍が仕組んだものである可能性が高い」

「私も同感だ。なぜ抗争を起こすのかは、定かじゃないがね」


 意見した俺に視線を向け、「とにかく」とシェイラさんが続ける。


「まずは、本当に『刺客』が操られているのか、確かめないといけない」

「そうですね。『刺客』が操られているというのは、現段階では、あくまで推測に過ぎないですから」


 俺がうなずきを返すと、シェイラさんが、天幕テント内にいる騎士に声をかけた。


「『解呪かいじゅ』スキルを持った騎士を連れてきてくれ。捕らえた『刺客』に『解呪』を試みようと思う」

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