彼女には裏があったが、それでも俺は見捨てない。――1

 翌日。三人が二日酔いになってしまったため、動き出せたのは昼過ぎになってからだった。


 俺たちは三度みたび、ポッサの冒険者ギルドに向かった。


 もちろん、フィナルで聞き込みをしても怪しまれないよう、言い訳となるクエストを受けるためだ。


 冒険者ギルドに入り、掲示板に向かうと、そこには人集ひとだかりができていた。


「ひとがいっぱいいるねー」

「なにか起きたのでしょうか?」

「みんなで行ったら邪魔になるから、取りあえず俺が見てくるよ」

「ん。パパ、お願い」


 目を丸くしている三人を置いて、俺は人集りに突入する。


 もみくちゃにされながら、なんとか掲示板が見える位置までたどり着くと、そこには三枚の張り紙があった。


「このひとたちは、俺たちが捕まえた『刺客』?」


 張り紙に刷られた写真に、俺は少なからず驚いた。


 張り紙にしるされた情報によると、この三人は冒険者だったらしい。


 顔写真が公開されているのは、おそらく、ほかの冒険者に釘を刺すためだ。


 この三人のように、フィナルの村人を襲うなんて悪行を働いたら、問答無用で見せしめにするぞっていうメッセージだろう。


 まあ、これで謎がひとつ解けた。

『刺客』は村人ではなく、冒険者だったんだ。


 冒険者の多くは、故郷を捨てた流浪者るろうしゃであるため、冒険者カードさえ見つからなければ、身分を隠すことができる。


 しかも、冒険者は往々にして高い戦闘力を持っており、数が少ないとはいえ、王国騎士団を苦しめる実力者も存在する。


 おそらく、この三人も高ランクの冒険者なんだろう。


 そう予想していた俺は、張り紙に記されている、三人の冒険者の詳細を読んで、目をいた。


「全員がCランク!?」


 思わず声を上げてしまい、周りの冒険者の視線を集めてしまう。


 それでも俺は、周りの視線を気にすることはなかった。いや、気にする余裕がなかったといったほうが正しい。


 実際に戦った感覚から推測すると、この三人の実力はAランククラス。少なくとも、Bランクは下回らないだろう。


 なにしろ、相手が三人組だったとはいえ、Sランク超のドッペルゲンガーや、Sランクのフリードを制した俺が、手こずったんだから。


 この三人がCランクであるはずがないんだ。明らかにおかしい。


 どういうことだ? 普段は実力を隠していたってことか?


「シルバさん!!」


 頭を捻っていると、俺を呼ぶ声が上がった。


 見ると、人集りをかき分けて、ラウルが近づいてくる。


 その顔付きには『必死の形相』との表現が相応しい。一目で、ただごとじゃないとわかった。


「どうしたの、ラウル?」


 尋ねると、ラウルは拳を握りしめ、歯を食いしばり、いまにも泣きだしそうな目をしながら、


「シルバさん! !」


 俺に頭を下げてきた。





「つまり、俺が捕まえた三人組のうち、剣士の男は、ラウルの元パーティーメンバーだったんだね?」


 冒険者ギルドのロビーで、俺はラウルの話を聞いていた。


 いわく、以前、ラウルが所属していたパーティーに、『刺客』のひとりである剣士の男がいたそうだ。


 ラウルはポッサを訪れてから、この冒険者ギルドを拠点にすると決め、パーティーを脱退したらしい。


 とはいえ、ラウルの脱退はパーティーメンバーの合意のもと、円満に行われたそうだ。再会したときは飲みに行こうと約束したくらいらしい。


「あいつは『刺客』なんてやるようなやつじゃないんす! 気さくでお人好しで、間違っても、ひとを傷つけるなんてあり得ない!」


 必死に訴えるラウルが、再び俺に頭を下げる。


「俺ひとりの力じゃ、どうしようもないんす! 無理を承知でお願いさせてください、シルバさん! 俺の仲間を助けてください!」


 ラウルは、ただの冒険者だ。ポッサの騎士団に協力をあおぐことはできないだろう。


 ラウルの言うとおり、彼ひとりの力では、仲間の無実を証明するのは難しい。


 だからこそ、魔公討伐を成し遂げた俺に頼んだのだろう。俺ならば、どんなに無茶なことでも解決してくれるだろうと考えて。


 正直、俺にそこまでの権力はない。ラウルが過大評価しているだけだ。


 けど、幸いなことに、いまの俺は、王国騎士団との共同クエストの最中さいちゅう。ポッサの騎士団に事情を伝えれば、情報を得ることくらいはできるだろう。


 俺たちの目的は抗争を収めること。そのためには、『「刺客」の戦力とランクに乖離かいりがある』という、新たな謎も解き明かさないといけないだろう。


 なにより、ここまでしたってくれるラウルを、無下に扱う気にはなれない。


「わかった。できるだけのことはやってみるよ」


 俺がうなずくと、ラウルはクシャクシャな顔で涙を流した。


「すいません、シルバさん……ありがとうございます……!!」

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