クエストは順調だが、どこか引っ掛かって仕方ない。――8

「うふふふふ、シルバさま、可愛い声ー」

「ミミミミア! な、なにしてるの!?」

「マーキングですー。シルバさまはわたしのだって、印をつけているんですー」


 言いながら、ミアが俺の首筋に舌をわせた。

 少しざらついた生ぬるい軟体が、ヌルヌルと肌を滑る。


 一頻りなめ回したあと、ミアはチュッ、チュッ、と音を立て、首筋にキスをした。


 続いてミアの舌は鎖骨に到達し、くぼみをネロネロとねぶってきた。


 言いようのない感覚に、俺の肌は粟立あわだち、背筋をゾクゾクとしたものが走る。


 ミ、ミアが、こんなベタベタな酔い方をするなんて……ラノベじゃあるまいし!


 心のなかで毒づいてみるが、状況が改善されるはずもない。ミアはなおも、ペロペロとマーキングを続ける。


 い、いままでとは異なるピンチだ! 俺の忍耐が試されるケースは(不本意ながら)多々あったけど、今回は真逆、ミアが暴走するパターン!


 すなわち、


 いくら俺が我慢しても意味がない! ミアを止めないと、このまま食べられてしまうかもしれない(隠喩いんゆ)!


 しかし、神獣であるミアに、俺の力は通用しない。先ほどから抵抗を試みているが、まったく引き剥がせそうにない。


 そ、そうだ! 相手が神獣なら、同じ神獣を頼ればいいんだ!


「ピ、ピピ! 助けてくれ!」

「くー……」

「寝てるぅうううううううううううううううううううううっ!?」


 嘘だろ!? このタイミングで寝落ち!? 神は死んだのか!?


「シルバさま❤ シルバさま❤」


 愕然がくぜんとしているあいだも、ミアの舌は俺の肌を這い回る。


 上目遣いされた瞳には、情欲の火が灯っていた。


 万事休す。絶体絶命。


 絶望しかけたそのとき、俺の視界に、フリフリと左右に揺れるミアのお尻が映った。


 瞬間、一条の光が俺の脳裏に走る。


 そ、そうだ! 前世でミアがイタズラをしたとき、お尻をつかむと大人しくなった! 現世でも同じだとしたら……!


 もう、この閃きに賭けるしかない!


「ミア、ゴメン!」

「ふにゃあっ!?」


 謝りながらお尻を鷲掴わしづかみにすると、ミアがビクンッ! と上体をのけ反らせた。


「シ、シルバさまっ!?」

「イタズラしたらいけません!」

「にゃあぁあああああっ!?」


 俺はさらに、五指に力を込めて、ミアのお尻を揉みしだく。


 ミアのお尻は程良く脂肪が乗っており、モチモチと柔らかい。まるで、つきたての餅をこねているようだ。


「にゃっ❤ にゃうんっ❤ シルバさま、お尻はダメですぅ❤」


 許しを請いながらも、ミアは俺を解放しようとせず、首筋に何度も何度もキスをしてくる。


「はっ❤ はっ❤」と、ミアの熱い吐息が首筋をくすぐり、俺は快感をこらえるために歯を食いしばった。


 こ、これでもダメか! なら、最後の手段だ!


 俺はクン、クン、と上下に動くミアのお尻から片手を離し、フリフリと振られる尻尾に照準を合わせる。


 尻尾の付け根をトントンすると、前世のミアは骨抜きになった。尻尾の付け根こそが、ミアの弱点なんだ。


 俺はミアの尾てい骨に片手を持っていき、


「わからず屋にはお仕置きです!」


 手首のスナップを利かせて思いっ切りはたいた。


 スパァンッ!


「ひにゃぁあああああああああああああああああああああっ❤❤!!」


 小気味よい音が響き、ミアの尻尾がピーン! と伸びる。


 背中をのけ反らせたミアは、目を見開き、舌を伸ばし、ビクッ、ビクッ、と痙攣けいれんした。


 数秒後、硬直していたミアの体が崩れ落ちる。


 ミアの体からは完全に力が抜けていた。これ以上、俺を襲うことなどできないだろう。


「よ、よかった……なんとか窮地きゅうちを脱したか」


 俺はふぅ、と息をつき、額に浮かんだ汗を拭う。


「ひんっ❤ はひっ❤」


 そんな俺に体を預け、ミアがあえぎ混じりの吐息をしていた。


 高く掲げられたお尻はカクカクと揺れ、全身の痙攣は、いまだに治まる気配がない。


 助かった。そう、助かったはずなんだ。


 けど、


「なんだか、取り返しのつかないことをしでかした気分だなあ」


 俺の全身から、イヤな汗が噴き出していた。

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