クエストは順調だが、どこか引っ掛かって仕方ない。――5

「なるほど。私たちが手に入れた情報も、シルバくんが報告してくれたものと一致するよ」


 夕方。


 王国騎士団の拠点に戻った俺たちは、天幕テントにて、シェイラさんに今日一日の報告をしていた。


 抗争の発端ほったんが、それぞれの村人のケンカだったこと。

『刺客』の登場が、争いを激化させる要因になったこと。

 そして、魔王軍が暗躍している可能性が高まったことを。


「しかし、きみたちは四人しかいないのに、よくここまで情報を集められたね。驚きだよ」


 腕組みしながら思案していたシェイラさんが、ふと俺たちのほうを向き、感心したような顔をする。


「当然だよ! だって、ご主人さまだから!」

「ふふっ、たしかにその通りだね」


 たわわな胸を「エッヘン」と張るクゥに、シェイラさんが笑みを漏らした。


「それに、『刺客』を三人も捕らえたというじゃないか! 私たちでさえ、ひとり捕らえるのがやっとだったというのに」

「王国騎士団が手こずったんですか?」

「シルバさま、『刺客』はたしかな実力者でしたから、あり得るかと思われます」

「情けないが、ミアくんの言うとおりだよ」


 シェイラさんが浮かべていた笑みを引っ込めて、顔を曇らせる。


「私たちと交戦した『刺客』も三人組だったが、ひとりひとりが、王国騎士団入団レベルの手練れだった。そのうえ、連携も洗練されていてね。勝利は収めたが、ふたり逃してしまったんだよ」


 シェイラさんが疲れたように吐息する。


「オマケに、捕らえた『刺客』をいくらただしても、なにも答えようとしないんだ。『刺客』から情報を引きだすのは難しいね」


 シェイラさんの報告に、俺は疑問を覚えた。


 顎に指を当てながら、シェイラさんに切り出す。


「シェイラさん、本当に、『刺客』は村人の差し金なんでしょうか?」

「どういうことだい?」


 シェイラさんが眉をひそめる。


「ワンとフィナルは、それぞれ辺境の村です。そんな場所に、王国騎士団入団レベルの猛者もさは、そう多くはいないはずです」

「なるほど。たしかに引っ掛かる」

「どういう、こと?」


 ピピがコテンと小首をかしげた。俺とシェイラさんが、なにを気にかけているのか、わからないようだ。


 俺はピピに、要点を噛み砕いて伝える。


「それぞれの村人のケンカを抗争まで発展させたのは、『刺客』の存在だよね? つまり、『刺客』は何度となく、それぞれの村を襲っているはずなんだ。けど、辺境の村に、王国騎士団を苦しめる強者つわものが、そうゴロゴロしているとは思えないんだよ」


 俺の故郷、ファルトがいい例だ。


 ファルトには、魔獣に対抗できる者でさえ、一握りしかいない。


 辺境の村ならば、ワンとフィナルも同じ状況であるはずなんだ。


「冒険者ギルドがクエストとして依頼しているんだから、すでに相当な数の『刺客』が捕まっているだろう。それなのに、それぞれの村には、いまだに『刺客』が現れるんだ。おかしいと思わない? それほどの数の『刺客』が、一体どこからやって来るんだろう?」

「たしかに、おかしい」


 得心がいったように、ピピが頷いた。


「やはり、この抗争には裏がありそうだね。明日からは、『刺客』の出所についても調べてみよう」


 明日の方針を決めたシェイラさんが、俺たちのほうを見やる。


「シルバくんたちも、引き続きポッサを拠点として、調査を進めてほしい」

「了解です」


 シェイラさんに頷きを返し、俺たちは夕焼けの空の下、ポッサへと戻った。

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