クエストは順調だが、どこか引っ掛かって仕方ない。――4

 騎士に三人の『刺客』を引き渡したのち、俺たちはシュシュと別れ、ポッサの冒険者ギルドに戻ってきた。


「それでは、こちらが報酬になります」


 受付嬢が、カウンターに九枚の金貨=九万セルを並べる。


「また、取得ポイントは三万ポイントになります」

「はい。ありがとうございます」


 俺は受付嬢に礼を言って、九枚の金貨を袋に収めた。


「やったね、ご主人さま!」

「抗争に関する情報も手に入れましたし、順調ですね」

「ん。一挙両得いっきょりょうとく

「そうだね。みんなも頑張ってくれて、ありがとう」


 三人の頭をそれぞれ撫でると、「「「えへへへへー」」」と頬をフニャリとゆるめる。


「それじゃあ、ちょっと早いけど、シェイラさんに報告しにいこうか。暗くなったら厄介だしね」


 ハーギスやポッサと違い、街道には魔石灯が整備されていない。そのため、夜になると、向かいにいるひとが誰なのか、わからなくなるくらい暗くなるんだ。


 もし、そのタイミングでモンスターに襲われたら、苦戦は必至。だからこそ、王国騎士団への報告は早めにしたほうがいい。


 三人がうなずき、俺たちは冒険者ギルドの出入り口へ向かう。


 俺が取っ手に手をのばすと、それより先に扉が開き、ラウルが現れた。


「お、戻ってきたんすか、シルバさん!」


 俺たちの姿を目にして、ラウルが破顔する。


「うん。ラウルも?」

「うっす! ちょうど、討伐クエストをこなしてきたとこっす!」

「そっか、おつかれさま」

「シ、シルバさんにねぎらってもらえるなんて、光栄っす!」

「そういうの、もういいから」


 勢いよく頭を下げるラウルに、相変わらずだなあ、と思いながら、俺は苦笑した。


「シルバさんのほうは、クエスト、どうでした?」

「一応、三人の『刺客』を捕らえたよ」


 俺が報告すると、ラウルは英雄に憧れる少年のように、目をキラキラと輝かせる。


「ス、スゲぇ! 『刺客』はAランク冒険者でも手こずるほどの手練れって聞いてたのに、それを三人も捕まえちまうなんて……!」

「今日は知り合いにも手伝ってもらったんだ。そのおかげだよ」

「ご主人さま、また遠慮してる!」

「たしかにシュシュさんに手伝ってもらいましたけど、『刺客』の相手をしたのは、ほとんどシルバさまだったではないですか!」

「ピピたちは、フォローしただけ。主役は、パパ」


 俺が謙遜けんそんするのをイヤがるふしがある三人は、どこか拗ねたように頬を膨らませる。


 三人の指摘を耳にして、ラウルが「おお……!」とわなないた。


「三体もの神獣を『使役』しながら、自らの力で『刺客』を捕らえちまうなんて……これが真の強者つわものってやつなのか……!」

「いや、俺ひとりの力じゃないって! みんなの協力があってこそだから!」

「決しておごることのない姿勢……まさに、人格者!」

「ラウルは、なにがなんでも俺を褒めないと気が済まない病気にでもかかってるの!? べた褒めされるとこそばゆいから、ホント、勘弁して!」


 恥ずかしさのあまり、俺は頭を抱えて叫ぶ。


 悶絶している俺に、ラウルがグッと身を乗り出してきた。


「シルバさん! このあと、よかったら飲みにいきませんか!? 俺、シルバさんの武勇伝が聞きたいっす! シルバさんみたいにデッケぇ男になりたいんすよ!」

「武勇伝とは、また大袈裟な……俺は、本当に大したことないのに……」


 ラウルの大層な表現に、俺は頬をヒクつかせる。


 俺をしたってくれるのは嬉しいけど、限度ってものがあるんじゃないだろうか? まあ、ラウルのことだし、自重じちょうしてほしいって頼んでも無理なんだろうけど。


 それにしても、飲みかあ……誘ってくれるのはありがたいんだけど……


 俺は小さく溜め息をついて、ラウルに答える。


「ゴメン、ラウル。これから向かわないといけないところがあるんだ。それに、俺たちはまだ、お酒が飲める歳じゃなくてね」


 現代日本と違い、ミズガルドでは、飲酒は一六歳から許される。


 けれど、俺は一五歳だし、俺よりあとに転生した三人は当然ながらアウトだ。


 なにより、俺たちには王国騎士団への報告という任務がある。


 フリードじゃあるまいし、任務よりも飲みを優先するなんて、とてもじゃないけどあり得ない。


 俺の返答を聞いて、ラウルが、「そうなんすか……」と肩を落とす。


「だったら、せめて、これを受けとってくれませんか?」


 ションボリしていたラウルが、気持ちを切り替えるように首を振って、バックパックから、赤紫色の液体が入った瓶を取り出した。


「俺の実家で作ってるブドウジュースっす! よかったら、みなさんで飲んでください!」

「いいの? 俺は飲みの誘いを断ったのに」

「もちろんっす! このブドウジュースを、シルバさんたちが飲んでくれてると思いながら、俺も酒を飲むんすよ! 遠距離飲み会っす!」

「発想が斬新すぎる!?」


 驚愕きょうがくのアイデアに目を剥きつつ、俺はラウルからブドウジュースを受けとる。


 想像だにしない提案だったけど、ある意味ラウルらしくて、俺は苦笑した。

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