クエストは順調だが、どこか引っ掛かって仕方ない。――6

 ポッサに着く頃には、とっぷりと日が暮れていた。


 大所帯である俺たちは、以前にみんなで泊まった、ハーギスの宿のように、大部屋がある宿を選んだ。


 当然ながら値段も張るが、『刺客の捕縛』クエストで九万セルもの大金を得ていたため、まったく問題なかった。


「今日も美味しかったーっ!」

「シルバさまのご飯を食べられることに、感謝ですね」

「幸せ太り、しそう」


 はふー、と幸せそうな息をつく三人を、俺は微笑ましい気持ちで眺める。


 宿のほうでも夕飯は提供されるのだが、「「「ご主人さま(シルバさま)(パパ)のご飯がいい!」」」と三人がねだったため、俺は共用の炊事場を借り、三人のために腕を振るった。


 クエストで少々疲れていたが、いつも助けてもらっている三人のためだと思うと、むしろ、やる気が湧いてきた。


 できあがったご飯を夢中で頬張る三人は、とても可愛らしく、俺の疲れも吹き飛んだ。


 あれだけ美味しそうに食べてもらえたら、俺としても作った甲斐かいがある。


「ボク、ご主人さまじゃないとダメになっちゃったよ」

「シルバさまに教え込まされてしまいました」

「パパなしじゃ、生きていけない」

「ご飯の話だよね!? そうだよね!?」


 お腹をさすりながら、恍惚こうこつとした表情で、そこはかとなく危険なニュアンスの発言をする三人に、俺は堪らず問いかける。


「そうだよ、ご主人さま?」

「そ、そっか、そうだよね」

「それ以外に、なにがあるのでしょうか?」

「へ? あ、いや、別に……」

「パパ、顔、真っ赤。どうしたの?」

「どどどどうもしないよ!?」


 コテンと首をかしげる三人に、俺は慌てて首を振った。


 嘘だ。どうかしている。ぶっちゃけ、いかがわしい想像をしてしまいました。


 しかし、それを悟られるわけにはいかない。


 俺は話題をらすため、バックパックに手をのばした。


「そ、そういえば、ラウルからブドウジュースをもらっていたよね! 食後にちょうどいいし、みんなで飲もうか!」

「「「賛成ー!」」」


 三人がはしゃぎながら手を挙げる。


 話を誤魔化せたことに安堵しながら、俺はコルクを引き抜いた。


 用意した木製のコップにブドウジュースを注ぎ、それぞれ三人に手渡す。


「それじゃあ、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 コップを掲げ、クイッと一口。


 芳醇ほうじゅんな味わいが、口いっぱいに広がった。


 うん、美味しい。かすかな甘みと豊かな酸味、特有の渋みが個性となり、鼻に抜けるアルコールの匂いがなんとも言えな――


「って、これワインじゃないか!!」


 じっくりと味わっていた俺は、目をいてツッコんだ。


 前世で飲んだものよりも甘みは強いが、漂う酒臭さが、これは紛れもなくワインだと物語っている。


 ラウルは俺のことを狂信レベルで尊敬しているから、イタズラの可能性はない。


 おそらく、ラウルのバックパックにはブドウジュースとワインが両方入っていたんだろう。ラウルは間違えて、俺にワインのほうを渡してしまったんだ。


 俺は小さく溜め息をついて、「困ったひとだなあ」と苦笑する。


「「「ヒック」」」


 と、三人分のしゃっくりを聞いて、俺は笑みを凍りつかせた。


 おそるおそる視線を向けると、三人は顔をほのかに赤らめて、頭をフラフラと揺らしている。


「ころジュース、らんか変な味しにゃいー?」

「そうれすねー、しょれに、頭がポーっとしましゅ」

「れも、美味しい、よ?」

「うわぁああああああああああっ!! みんな、それ以上、飲んじゃダメだぁああああああああああっ!!」


 制止するが間に合わず、三人はコップを傾けて、ワインを飲み干してしまった。

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