クエストは順調だが、どこか引っ掛かって仕方ない。――3

 自由を取り戻した俺の前で、水壁が消滅し、再び剣士の男が跳びかかってくる。


 ミスリルソードを構えながら、俺は内心で感嘆かんたんした。


 なるほど、シンプルだけど効果的な戦術だ。


 剣士の男が接近戦をしかけ、俺の注意を引きつける。

 剣士のサポートは男性の魔法使いが担当し、トドメを刺すのは女性の魔法使い。


 きっちりと役割分担がされた、お手本のような連携だ。


 オマケに練度も相当なもの。並の冒険者では相手にならないだろう。


 剣士の男がロングソードを振るい、後衛の魔法使いたちが杖を構える。


「けど、連携ならこっちも負けないぞ?」


 俺はニッと牙をくように笑う。


『ピピ、魔法使いたちは任せた!』

『んっ!』


 念話を送りつつ、ミスリルソードでロングソードの一撃を受け止める。


 男性の魔法使いが支援魔法を行使しようと杖を掲げ――その体がはじき飛ばされた。


 女性の魔法使いが驚愕きょうがくの顔を浮かべ、直後、同じように吹き飛ばされる。


『神速』を用いたピピが、魔法が発動する前に、ふたりの魔法使いを蹴りとばしたんだ。


 仲間がやられ、剣士の男の注意が後方にれる。


 その一瞬を、俺は見逃さない。


「はぁああああああっ!」


 受け止めていたロングソードを弾き上げ、剣士の男の上体を浮かせる。


 続け様、ミスリルソードを手放し、俺は剣士の男のふところに潜り込んだ。


 左腕を伸ばして男の片腕をグッとつかみ、右肩を男の鳩尾みぞおちに押し当てるようにして、


「せぁああああっ!」


 一本背負いの要領で投げ飛ばす。


 地面に叩きつけられ、男の手からロングソードがこぼれた。


 そのまま流れるように寝技に持ち込んで、男の腕関節をめる。


 これで、剣士の男の制圧は完了だ。


 戦闘のかなめである剣士を失ったことで不利を悟ったのか、ピピに蹴りとばされたふたりの魔法使いは、背後の森に逃げ込もうとした。


 しかし、あらかじめフィナルの地理を確認しておいた俺には、想定の範囲内だ。


『クゥ、ミア、頼んだよ!』

『『了解!』』


 森に向かう、ふたりの魔法使いをはばむように、クゥとミアが立ちはだかる。


 ピピとの『視覚同期』、および、『意思疎通』によって、俺はクゥとミアをナビゲートし、呼び寄せていたんだ。


 ふたりの魔法使いが、応戦しようと杖を構える。


 刹那せつな


「はっ!」


 残像を生むほどの速度でミアが駆け、ふたりの魔法使いの手から杖を奪い取った。


 ふたりの魔法使いが愕然がくぜんと目を剥く。魔法使いたちの目には、杖が忽然こつぜんと消えたようにしか映らなかっただろう。


 ふたりの魔法使いの背後に着地したミアが、クゥに合図を送る。


「いまです、クゥさん!」

「『フリージング』!」


 クゥが手をかざすと、ふたりの魔法使いの脚が氷に覆われた。


 杖を奪われ、氷の枷をめられた以上、ふたりの魔法使いには、もはや

すべはない。


 三人組の『刺客』を捕縛した。クエストは達成だ。


「クゥ、ミア、ピピ、おつかれさま。助かったよ」


 俺は、剣士の男の腕を縄で縛りながら、三人をねぎらう。


「じゃあ、約束どおり、甘えさせて?」


 駆けよってきたピピが、俺の背中に抱きついた。


「ピピ、ズルい! ボクも寂しかったんだから!」

「わたしもです! ずっと我慢していたんですからね!」


 クゥとミアも、それぞれ俺の腕に抱きつく。


「こ、こら! いまはこのひとの腕を縛っている最中さいちゅうなんだから、大人しくしていなさい! あとでいっぱい甘えさせてあげるから!」

「「「はーい」」」


 少しだけ名残惜しそうにしながらも、三人が俺を解放する。


 そんな俺たちのやり取りを、シュシュが切なげな目で眺めていた。

 まるで、温かな家族の団らんに憧れる、独りぼっちの子どものように。


 剣士の男を拘束した俺は、そんなシュシュに手を差しだす。


「シュシュも、こっちにおいで?」

「え? け、けど……」

「フレイムバレットから俺を守ってくれただろう?」


 それでもシュシュは、ためらうように、その場でモジモジとしている。


 俺は苦笑して、シュシュに歩みよった。


「ありがとう、シュシュ」


 ターコイズブルーの艶髪つやがみを優しく撫でると、シュシュはキョトンと俺を見上げた。


「シュシュは、ご主人さまを守ってくれたんだね!」

「わたしたちからも、お礼を言わせてください」

「ん。お手柄」


 三人もシュシュを取り囲み、笑顔を向ける。


 シュシュの目尻に涙が浮かんだ。


「あ、ありがとう、ございます……あ、あたし、幸せ、です!」

大袈裟おおげさだなあ。なにも泣くことなんてないじゃないか」


 俺が笑いかけると、シュシュは目元を擦りながら、微笑みを浮かべた。


「う、嬉し泣き、です」


 そう言って、シュシュは涙を流し続けた。

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