俺は王国騎士になれなかったが、協力要請がきたらしい。――2
俺が依頼を承諾した三日後、王都から迎えの馬車がやってきた。
俺たち四人は馬車に揺られ、一日半かけて王都『ブルータス』に到着した。
ブルータスの街並みは、王都とあって
馬車の窓かブルータスの街並みを眺めながら、俺たちはついに、王国騎士団の
「はじめまして、シルバくん! よく来てくれたね!」
詰所の応接間で俺を出迎えてくれたのは、
栗毛のポニーテールに、
俺よりもわずかに高い、女性としては珍しいほどの長身に、クゥ並みに豊かな胸。
シャツとスカートの上に、ミスリルアーマー、
うわぁ! 俺、『
それも仕方ない。なにしろ彼女は、ブルート王国中に名が知れ渡る有名人であり、俺の憧れのひとでもあるんだから。
シェイラ・ダ・リヴェルト――
「依頼を引き受けてくれて感謝する。よろしく頼むよ」
「あ、は、はい! こちらこそ!」
シェイラさんに握手を求められ、俺はおっかなびっくり応える。
「緊張しているのかい? まあ、依頼の重大性を考えれば仕方ないと思うが、ともに頑張ろうじゃないか!」
「あ、いえ、緊張しているのは依頼とは無関係といいますか……」
「ほう! 今回の依頼を前に尻込みしていないのかい? 話に
シェイラさんが
いや、俺はただ、憧れのひとと握手できてドギマギしているだけなんですけど……まあ、そんなことは打ち明けないでいいか。
俺が苦笑していると、シェイラさんの隣にいる
不愉快そうな視線に、俺はたじろぐ。
金の長髪に青いつり目。
ミスリルのプレートメイルをまとう、一八〇は超えるだろう長身。
間違いない。あのひとは、王国騎士団二番隊隊長、フリード・ダ・エイターだ。
シェイラさんと同じく有名人の、フリードさんに出会えた喜びとともに、俺は疑問を抱いた。
なんでフリードさんが俺を睨んでくるんだ? 俺、フリードさんとは初対面だよな? どこかで恨みを買うようなこと、したっけ?
俺が首をかしげるなか、シェイラさんはミアとピピとも握手をしていた。
ひとり、人間不信のクゥにそっぽを向かれ、苦笑していたけれど。
「ひとまず座ってくれ」
一通りあいさつをしたあと、シェイラさんは応接間のソファを示した。
俺たち四人が並んで座ると、シェイラさんは対面のソファに腰かける。
フリードさんはシェイラさんの斜め後ろに立ち、相変わらず俺に
「まず、魔公ドッペルゲンガーを討伐してくれたことに、心からの感謝を述べよう。本当にありがとう」
シェイラさんが深々とお
憧れのひとに頭を下げられて、俺は慌てて両手を振った。
「あ、頭を上げてください! 俺たちがドッペルゲンガーを討伐したのは私情ゆえです! シェイラさんがそんなにかしこまらなくてもいいですよ!」
そう。俺たちは、妖精郷を救うためにドッペルゲンガーと戦ったんだ。
ブルート王国も、王国騎士団も、はっきり言ってどうでもよかった。
結果的にブルート王国に貢献できたわけだが、ドッペルゲンガーとの戦いは私闘といったほうが正しい。
それでもシェイラさんは
「そういうわけにはいかない。私たち王国騎士団の使命は、ブルート王国の国民の、剣と盾になることだ。それなのに魔公の討伐に失敗し、
顔を上げたシェイラさんは、しかし、申し訳なさそうに眉をひそめていた。
そんなシェイラさんに、俺は困ったように笑ってみせる。
「俺も、シェイラさんと同じですよ」
「同じとは?」
「俺も、ドッペルゲンガーと戦っているときは、自分の無力さが
ドッペルゲンガーとの戦いで、俺は三人に頼りっきりだった。
そのうえ、大怪我まで負わせてしまったんだ。あのときのことは、いまだに悔しくて、思い出すだけで胸を
「俺ひとりの力では、ドッペルゲンガーに太刀打ちできませんでした。ドッペルゲンガーを倒せたのは、すべて、みんなのおかげなんです」
言いながら、俺は三人に視線を向ける。
三人はキョトンとした顔を見せ、
「そんなことないよ! ご主人さまがいないと、ボクたちは全滅していたもん!」
「そうです! それに、ドッペルゲンガーにトドメを刺したのはシルバさまではないですか!」
「パパは、
必死に訴える三人を見て、俺は改めて思う。
強くならないといけない。みんなと並んで戦える力を、みんなを守れるだけの力を、身につけないといけないな。
「そうか。シルバくんだけでなく、きみたちも尽力してくれたんだな」
シェイラさんが立ち上がり、もう一度、うやうやしく腰を折った。
「クゥくん、ミアくん、ピピくん。王国騎士団団長として、きみたちに最大の敬意を表するよ」
「だから、頑張ったのはご主人さまだって言ってるでしょ!」
「ちょっ、クゥ!?」
「ははっ! もちろんわかっているさ! きみのご主人さまは本当に立派だ!」
噛みつくクゥを意にも介さず、シェイラさんは爽やかに笑っている。
けど、俺はクゥの態度にハラハラさせられっぱなしだ。
「チッ」
慌てふためく俺の耳に、舌打ちが届いた。
見ると、フリードさんが
本当に、フリードさんは、なんでここまで俺に敵意を向けるんだろう?
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