俺は王国騎士になれなかったが、協力要請がきたらしい。――3

「さて。では、今回の依頼についての話をしよう」


 俺が怪訝けげんに思うなか、シェイラさんがソファに座り直し、切り出す。


「シルバくんたちは、依頼内容が『ワンとフィナルの抗争を鎮静すること』だと聞いているね?」

「はい。込み入った事情があるとも」


 シェイラさんがコクリと首肯した。


「事情とは一体なんなんですか?」

「今回の抗争に、魔王軍が関与している可能性があるんだ」


 神妙しんみょうな顔付きでシェイラさんが答える。


 俺は愕然がくぜんとした。


「抗争の裏で、魔王軍が暗躍あんやくしているってことですか?」


「おそらくね」とシェイラさんが首肯する。


「ワンとフィナルが抗争をはじめてから、それぞれの村に魔獣が出現するようになったんだ。それまでは現れることなど滅多めったになかったというのにね」

「なるほど。その魔獣を引き入れたのが魔王軍だということですね」

「そういうことだ。そこで、シルバくんに声をかけたというわけだよ。きみたちは魔公討伐者だ。魔王軍が相手となると、きみたち以上に頼りになる者はいない。きみたちがいれば百人力だよ」

「むぅ? シェイラは思ったより見る目があるね」

「私は事実を口にしたまでさ」


 ニッコリ笑うシェイラさんに、クゥが腕組みをして「うんうん」と頷く。


「シェイラはご主人さまの真価をわかっているね。ボク、シェイラのことを誤解してたみたいだよ。シェイラはいいひとだね!」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 クゥがひとを見る際の判断基準は、『俺を認めているかいなか』のようだ。


 なんとなく、いつか騙されるんじゃないかと心配になる。


「納得がいきませんね!」


 シェイラさんとクゥがほがらかに笑い合っていると、それまで黙っていたフリードさんが、声を荒らげた。


 俺をギロリと睨みつける、フリードさんの眼差しには、悪意がありありと浮かんでいる。


「この男は平民なうえ、Fランクスキル保有者。社会的に最底辺のやからなのですよ? このような下賤げせんな男の力を借りる必要などありません! 協力を仰ぐなど言語道断! 王国騎士団の恥です!」


 いきなり罵倒ばとうされ、俺は唖然あぜんとした。


 敵視されているとは感じていたけれど、こんなにもこき下ろされるとは想像だにしなかった。


 フリードさんも、冒険者登録をした日に俺に絡んできたダビッドと同じ、低ランクスキル差別派なのだろうか? 


 それにしては、フリードさんの表情からは、若干、軽蔑けいべつとは異なる感情がうかがえるんだけど……どこか嫉妬しっとに近いような。


 疑問を抱く俺は、冷え冷えとした空気を隣から感じ、身を震わせた。


 三人が、恐ろしいほどの真顔でフリードさんを見据みすえている。その瞳には一切の光がなく、憎悪だけが宿っていた。


 うわぁ……みんな、見るからに殺気立ってる! 俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、王国騎士団の詰所で問題を起こしたら、流石さすがに立場が悪い!


 焦りを覚えた俺が、三人をなだめようとしたとき、


「口が過ぎるぞ、フリードくん」


 それまで温厚な雰囲気だったシェイラさんが、底冷えするような声でフリードさんを叱責しっせきした。


「シルバくんたちは、こちらの要請に応じてくれたんだ。感謝こそすれど、立場やスキルランクをざまに言うのはおかしいと思わないかい?」

「しかし、団長!」

「そもそもシルバくんは、きみの尻拭いをしてくれた恩人だ。彼を愚弄ぐろうするなら、たとえきみでも許さない」


 にべもなく、シェイラさんはフリードさんを一刀両断する。


「恥とは、いまのきみのことを指すんだよ」


 シェイラさんにさとされ、フリードさんはギリリ、と歯をきしらせた。


「席をはずしたまえ。頭を冷やしてくるといい」

「……失礼します」


 シェイラさんの指示に、感情を押し殺した声で答え、フリードさんが退室する。


 部屋を出る直前に向けられた、憤怒に染まったフリードさんの目に、俺は肝の冷える思いをした。

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