俺は王国騎士になれなかったが、協力要請がきたらしい。――1

「王国騎士団が、俺に依頼を!?」


 俺は、ますます目を丸くした。


 なにしろ、王国騎士団はブルート王国におけるエリート集団。大抵の問題を解決してしまう王国騎士団が、冒険者に依頼するケースは、とてもまれだからだ。


 しかも、俺はもともと王国騎士団に憧れていた。憧れの存在から声がかかったら、驚くなというほうが無理だろう。


 けど、俺にはわからなかった。


「なんで王国騎士団が、俺なんかに依頼してきたんでしょうか?」


 俺はAランク冒険者だ。王国騎士団ともなれば、Sランク冒険者に声をかけるものではないだろうか?


 なんでわざわざAランクの俺を、しかも名指しして依頼してきたんだろう?


「そんなの、シルバさんが大人物だいじんぶつだからに決まってるじゃないですか!」


 俺が腕組みして考えていると、レティさんが胸元で拳を握りながら、意気込んで主張してきた。


「シルバさんは、王国騎士団ですら敵わなかった、魔公ドッペルゲンガーを討伐したんですよ? 王国騎士団から頼られてもおかしくないです!」


 レティさんが自慢げに人差し指を立てる。


「すでに冒険者のあいだでは話題になっているんですよ? 『王国騎士団の失態をカバーした英雄』、『神獣を使役する規格外の大型ルーキー』って。担当受付嬢のわたしも鼻が高いです!」

「なんだろう? メチャクチャ恥ずかしい」


 自分の活躍が評価されるのは嬉しいけど、そこかしこで自分の話がされていると思うと、妙にこそばゆい気分になる。


 照れくさくて、俺は苦笑しながら頬をいた。


「レティもご主人さまの偉大さがわかってきたようだね、いいことだよ! これからも精進しょうじんおこたらないようにね!」

「あははは……きょ、恐縮ですぅ」


 俺が褒めそやされて嬉しいのか、クゥが両手を腰に当てながらドヤ顔をする。


 珍しくクゥに詰め寄られなかったレティさんが、乾いた笑みを漏らしていた。


 というか、精進って具体的になにをすればいいんだろうね?


「おめでたいことですね。わたしたちも誇らしい気分です」

「ん。パパ、頑張ってきたもん、ね」


 ミアが柔らかく微笑み、普段は無表情なピピも、口元をほのかにゆるめていた。


 三人は俺の挫折ざせつを知っている。そして、そんな俺の努力を一番近くで見守ってきてくれたんだ。


 三人とも、俺が認められたことが嬉しいんだろう。


 クゥが、ふわりと包み込むような笑みを見せた。


「よかったね、ご主人さま」


 穏やかなクゥの言葉が、ジン、と胸に染み入る。


 感慨深い気持ちになりながら、俺は三人の頭を撫でた。


「ああ。みんなのおかげだよ」


 三人が幸せそうに目を細めた。


「では、依頼の内容をお話ししますね?」


 俺たちの様子を微笑ましそうに眺めていたレティさんが口を開く。


 俺が「お願いします」と答えると、レティさんは説明をはじめた。


「今回の依頼は『抗争の鎮静』です」

「王国騎士団の依頼とあって、流石さすがに規模が大きいですね」


 俺が緊張から唾を飲み込むと、レティさんがうなずきを返す。


「シルバさんは『エスピーノ王国』をご存じですか?」

「ブルート王国に隣接する友好国ですよね?」

「はい。抗争が起きているのは、エスピーノ王国の辺境の村『フィナル』と、ブルート王国の辺境の村『ワン』なんです」


 レティさんが眉尻を立てて真剣そうな顔をした。


「抗争が悪化して紛争になれば、ブルート王国とエスピーノ王国の友好関係に亀裂が入ります。最悪、国同士の戦争に繋がるかもしれません。そこで、王国騎士団が解決に乗り出したんです。シルバさんには王国騎士団に同行し、協力して抗争を収めてほしいんです」

随分ずいぶんと重大な任務ですね」

「はい。その分、報酬も桁違いですよ? クエストを達成したあかつきには、王国騎士団が一〇〇万セルを支払われるそうです」

「一〇〇万!?」


 俺は思わず瞠目どうもくした。


 日本円に換算すると約一〇〇〇万円。まさに破格の報酬だ。


「加えて、五〇万ポイントが加算されます。これは、Sランク昇格に必要なポイントと一致します」


 オマケに、クエストを達成すると、俺はSランクに昇格するらしい。


「と、とんでもない報酬ですね」

「延いては戦争の回避に繋がるクエストですからね。妥当だとうだと思いますよ?」


 驚きに声を震わせる俺に、レティさんが苦笑を浮かべた。


「さらに込み入った事情もあるらしいのですが、その話は依頼を承諾しょうだくしてから、王国騎士団のほうで直々じきじきに説明されるそうです」


 俺は「ふむ」と顎に指を当てた。


 込み入った事情か……依頼を承諾してから話すということを踏まえると、どうやら、フィナルとワンで起きている抗争には、下手へたには明かせない秘密があるようだ。


 桁違いの報酬の理由は、おそらくその秘密にもあるんだろう。


「どうしますか、シルバさん?」


 レティさんが、クエストを受けるかいなかを問うてきた。


 かなり大それた依頼だが、報酬もそれに見合っている。なにより、憧れの王国騎士団とともに働けるのは願ってもないことだ。


 もともと遠出する覚悟はできていたし、冒険者としての経験も、充分じゅうぶん積んだと自負している。


 それならば、断る理由はない。


「わかりました。その依頼、引き受けます」

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