俺は大したやつじゃないが、それでも誰かを助けたい。――4
妖精郷、カメロトの大樹内。
女王の間に、ふたつの人影があった。
ひとつは、妖精女王ニアヴィーアのもの。
そしてもうひとつは、魔公のものだ。
影を
「お前が妖精女王だな?」
「マナーがなってないのです。レディーに話しかけるなら、まずは名乗っていただきたいものです」
「これは失敬」
キッと眉をつり上げるニアヴィーアに、「クククッ」と魔公がいやらしく笑う。
「俺は魔王直属の七魔公のひとり、『ドッペルゲンガー』。妖精女王、お前に話がある」
「わたくしの領地に無断で侵入した挙げ句、なお
「
ニアヴィーアから槍のように鋭い視線を向けられても、ドッペルゲンガーは意にも介さず、涼しい顔をしている。
「……話とは、なにですか?」
「魔王軍の
ドッペルゲンガーがニヤリと
ニアヴィーアは、はぁ、と嘆息する。
「お断りなのです。あなたは外交官として無能ですね。礼節を学んでから出直しなさい」
「おいおい、なに勘違いしてんだよ」
にべもなく断ったニアヴィーアを、ドッペルゲンガーが
「これは『外交』じゃねえ、『命令』だ」
ドッペルゲンガーの影が
影の触手には、小柄な人影がいくつも捕らえられている――妖精だ。
捕らえられた
「お前に断る権利なんざねぇんだよ。イエス以外に選択肢はねぇ。まあ、どうてもイヤってんなら――」
影の触手が、妖精たちの衣服をビリビリと引き千切った。
妖精たちが「ひぃっ!!」と引きつった悲鳴を上げる。
さらけ出された妖精たちの裸体に、影の触手が蛇のように絡みつく。
「こいつらの身も心も汚し尽くされることになるんだが、構わねぇか?」
ニタニタと
女王の間の壁が砕け散ったのは、そのときだ。
もうもうと漂う粉塵のなかから、二振りの刀を握る、猫人族の少女が跳び出した。
「なっ!?」
「はあぁああああああっ!!」
驚愕に硬直するドッペルゲンガーの脇を、猫人族の少女が駆け抜ける。
刹那、二振りの刀が閃き、妖精たちを捕らえている影の触手が、バラバラに斬り刻まれた。
「ピピ!」
「ん!」
男女の声がしたかと思うと、粉塵が豪風に
そこに立っていたのは、ミスリル装備に身を固めた、人族の少年と、黒い貫頭衣をまとう、犬人族の少女だ。
「パパ。妖精さん、助けた」
いつの間にか、女王の間に鳥人族の少女が現れていた。
鳥人族の少女は、宙を舞いながら人族の少年に声をかける。
鳥人族の少女の
「よし! クゥ、頼む!」
「『アイスニードル』!」
少年の指示を受け、犬人族の少女が氷魔法を行使した。
無数の
ドッペルゲンガーは、「ちっ」と舌打ちしながら、両腕をクロスさせて防御姿勢をとった。
氷槍がドッペルゲンガーを吹き飛ばし、勢いそのままに壁をも砕く。
その光景を呆けるように眺めていたニアヴィーアがフラリと立ち上がり、呟くように少年の名を呼んだ。
「……シルバ」
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