妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――9

「本当にありがとうございます」


 夕方。

 妖精郷に帰還した俺たちは、女王の間で、ニアヴに魔獣討伐の報告をしていた。


「シルバのおかげで妖精郷は救われたのです。いくら言葉を尽くしても、感謝しきれないのです」

「いや、俺は大したことはしてないよ」


 深々と頭を下げるニアヴに、俺は苦笑を返す。


「頑張ってくれたのは俺の仲間たちだ。俺よりも、みんなを褒めてくれたら嬉しい」

「もう! ご主人さまだって頑張ったじゃない!」

「そうですよ? 謙虚なシルバさまはステキですが、行き過ぎはどうかと思います」

「パパは、もっと、自慢していい」


 珍しく三人が反論してきて、俺はポカンとしてしまった。俺が卑下ひげするのが我慢ならないんだろう。


 三人に注意され、俺は頬をいた。


 自虐する癖は直すべきなんだろう。そのために、ちゃんと実力をつけて、自分を誇れるようにならないとな!


 俺が新たな決意を固めていると、ニアヴがクスクスと笑みを漏らした。


「シルバは人徳に満ちた方なのです。クゥもミアもピピも、シルバだからこそついていくのでしょう」

「ニアヴも、ようやくご主人さまの素晴らしさに気付いたようだね!」

「ええ。はじめて会ったとき、疑ってしまい申し訳ないのです」

「わかればいいんだよ!」


 クゥが豊満な胸を誇らしげに張り、ニアヴが冗談めかしてこうべを垂れる。


 険悪だったふたりのじゃれ合いに、俺は微笑ましい気分になった。


「あなたたちは、これからも冒険を続けるのでしょう。わたくしたちは、親愛なる友人たちに、せめてもの力添えをしたいのです」


 ニアヴが妖精たちを呼ぶ。


 妖精たちは小さな木箱を四つ抱えていて、それぞれの木箱には、木の枝で作られた腕輪が収められていた。


「それらは『母聖樹ぼせいじゅ腕輪うでわ』。消耗アイテムではありますが、五秒間、あらゆるダメージを無効化してくれます」

「つまり、無敵化ってこと? スゴく便利なアイテムだよ、ご主人さま!」

「ですが、妖精郷のアイテムは貴重品。わたしたちがいただいてもよろしいのですか?」


 はしゃぐクゥの隣で、ミアが冷静に質問する。


 ニアヴは迷いなく首肯しゅこうした。


「シルバたちの功績を考慮すれば当然です。むしろ、足りないくらいなのです。もっとせがんでもよいのですよ?」

「いやいや、充分過ぎるくらいだよ! ありがとう、ニアヴ」

「本当に、シルバは謙虚なのですね」


 俺が笑顔で礼を言うと、ニアヴは苦笑を返した。


 俺たちは腕輪を受けとって、各々おのおの、左腕にはめる。


 俺たちが腕輪をはめた左腕を掲げると、満足したように、ニアヴが顔をほころばせた。


「わたくしたちの贈り物が、あなたたちの冒険の助けになることを祈っているのです」


 ニアヴが玉座から立ち上がり、うやうやしく腰を折る。


「わたくしたちは、あなたたちからいただいた恩を忘れません。妖精郷を救った、心優しい戦士たちの活躍を、未来永劫みらいえいごう、わたくしたちは語り継いでいくことでしょう」


 頭を上げたニアヴは、大輪の花のような笑顔を咲かせた。


「シルバ、クゥ、ミア、ピピ、どうか壮健そうけんでいてください」

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