俺は大したやつじゃないが、それでも誰かを助けたい。――1
妖精郷から帰ってくると、ハーギスは夜の
帰路でグレイウルフを討伐したことでクエストを達成していたが、時間が遅すぎたためか、冒険者ギルドは閉まっていた。
そこで俺たちは報告を後回しにし、宿に泊まることにした。
翌朝。
俺たちはパンパンに膨れたバックパックを背負い、冒険者ギルドへ向かっていた。
「ご主人さま、また昇格できるかな?」
「たくさん魔石を集めましたから、確実だと思いますよ?」
「二段昇格も、あり得る」
三人はワクワクとした様子で話し合っていた。
グレイウルフの魔石はクエスト達成条件と同じ数だが、それだけでなく、大量のガルムの魔石と、さらにはケルベロスの魔石まである。
多数の、Bランク魔獣の魔石に加え、Aランク魔獣の魔石。これらがあって、昇格しないほうがおかしい。ピピの言った二段昇格も夢じゃないだろう。
ただ、俺にはひとつだけ心配事があった。
また、レティさんを驚かせてしまうだろうなあ。俺がDランクに昇格したとき、魂が抜けたみたいに
Bランク・Aランクの魔獣を、Dランクの冒険者が仕留めるのは、無謀を超えた自殺行為だ。
しかし、俺はそれを何回もこなしてしまった。
その事実を知ったら、
「レティさん、今度は気絶するんじゃないかなあ?」
グルグルと目を回して卒倒する担当受付嬢の姿を想像し、俺は頬を
○ ○ ○
冒険者ギルドの扉を開け、何事かと俺は目を見張った。
ただでさえ騒がしい冒険者ギルドに、いまや物々しい雰囲気が漂っていたからだ。
ロビーの冒険者の数は目に見えて増えており、テーブルは満席。立っている冒険者のほうが多いくらいだ。
冒険者たちの表情は一様に険しく、語り合う声にも覇気がない。喪中のようにどんよりとしている。
まるで、これから襲来する嵐を恐れているかのような光景だった。
「ご無事でしたか、シルバさん!」
立ち尽くしていると、バックヤードから出てきたレティさんが、俺を見つけて駆けよってきた。
髪型の乱れと額に浮かぶ汗が、彼女の疲労を物語っている。
「レティさん、なにかあったんですか? みなさん、顔が暗いですし、不穏な気配がしますけど……」
「アマツの森に『
レティさんの答えに、俺は息をのんだ。
「魔王直属のモンスターが、アマツの森に?」
魔王に次ぐ力を持つ、七体のモンスター。それが魔公だ。
魔公は、Sランクである『魔人』すら超える、天災クラスの脅威。神獣すらも敵わない、理不尽の
Sランクの冒険者が
驚愕に言葉を失う俺に、レティさんが状況を語る。
「現在、魔公を討伐するために、王都から王国騎士団が派遣されています。あまりにも危険すぎるので、冒険者ギルドは一時的に、クエストの受付を中止したんです」
説明しながら、レティさんが、ホッ、と安堵の息をついた。
「わたしたちは巻きこまれた冒険者がいないか確認しています。シルバさんたちが、五日前にアマツの森に行ったきり戻ってこなかったので、心配していたんですよ」
「そうだったんですか……ご心配をおかけしてすみません」
「いえいえ、ご無事でなによりですよ。では、わたしは仕事に戻りますので!」
スチャッ、と敬礼し、レティさんが走り去っていく。
「なんだか大変なことになったね」
「ええ。ですが、なぜ魔公はアマツの森に現れたのでしょうか?」
「たしかに、魔公の目的が、わからない、ね」
三人が首をかしげた。
俺にもわからない。
出現したからには、なにか目的があるんだろうけど、アマツの森は、魔公が重要視するほどの場所だとは思えない。
アマツの森よりも資源が豊富な場所はいくらでもあるし、王都に近いわけでもないから、戦略的にすぐれているとも言えない。
それなら、なぜ?
しばらく考えて、俺はハッとした。
「妖精郷だ」
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