妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――8

 それぞれの配置につき、俺は『意思疎通』でみんなに尋ねる。


『準備はいいね?』

『『『もちろん!』』』


 ハキハキとした返答に、自然と笑みが漏れた。


 ひとつ息をつき、俺は号令をかける。


『作戦決行!』

『『『了解!』』』


 三人が神獣形態となって跳び出し、目立つ動きをしたことで『朧草の花粉』の効果が切れる。


 ガルムたちが三人に気付く、その直前。


『クゥ、ピピ、頼む!』

「『アイスニードル』!」

「『サイクロン』!」


 俺は指示を飛ばし、クゥとピピが応じる。


 クゥが弾幕の如く氷槍ひょうそうを撃ち出し、ピピが飛翔しながら竜巻を起こした。


 氷槍と竜巻に奇襲され、ガルムたちが右往左往する。


『いまだ、ミア!』


 ガルムたちの混乱を見逃さず、俺はミアにゴーサインを出した。


 ミアが猛然と駆けだす。

 木々の合間を縫い、ガルムの群れをくぐり抜ける様は、まるで白い流星だ。


『WWWWOOOOOOOOOOOOHHHHHH!!』


 ガルムたちが狼狽ろうばいするなか、ケルベロスが遠吠えした。


 おそらくは指令が込められているのだろう。ケルベロスの咆哮により、ガルムたちが冷静さを取り戻す。


 ケルベロスへ向かうミアを阻もうと、ガルムたちが跳びかかってきた。


『ピピ、フォロー!』

「『ウインドカッター』!」


 即座、俺は支援を要請する。


 俺の指示に従い、空を舞っていたピピが風の刃を放った。


 ミアに襲いかかってきたガルムが、上空から飛来した風の刃で輪切りにされる。


 邪魔者が排除されたことで、ケルベロスまでの道がひらけ、ミアが一気にそこを駆け上がる。


 接近するミアを睨みつけ、ケルベロスが大地を踏み鳴らした。


 大地が赤く染まり、業火が噴き出す。上級炎魔法『ヘルフレイム』だ。


 噴出された業火が、真紅の波となってミアに迫る。


『クゥ、魔法無効!』


 クゥが業火に向けて波動を放った。『魔法無効』スキルの発動だ。


 大気が揺らぎ、ミアをのみ込もうとしていた業火がかき消される。


 ケルベロスまでは、あと少し。


 止めることを諦めたのか、ケルベロスはガルムをともない、ミアに牙をいた。


 真っ向勝負。


 無数の牙がミアに殺到する。


 刹那、ミアの周りの地面が銀の輝きを放った。


『武具創造』スキルの発動。おびただしい数の槍が剣山の如く出現し、ガルムとケルベロスを貫く。


『GRRRR……OOOOOOOOOOHHHH!!』


 それでもケルベロスは粘りを見せた。


 何本もの槍に巨躯を縫いつけられながら、それでも再び、ヘルフレイムを発動しようと咆える。


 だが、ミアのほうが早かった。


『武具創造』スキルで作り上げた、斬馬刀もかくやの巨大なつるぎくわえ、ケルベロスの脇を駆け抜ける。


 一直線に剣閃けんせんが走った。


 咆哮したままの格好で、ケルベロスが横一文字に両断される。


 ボスの死を目の当たりにして、ガルムたちが浮き足立った。


 好機。


『いまだ! クゥ、ピピ、合体魔法!』


 決着をつけるべく、俺はふたりに指示を下す。


 クゥが雄叫びを上げ、ピピが翼をはためかせた。


「『コールドウインド』!」

「『タイフーン』!」


 すべてを氷結させる真白ましろい冷気と、すべてを蹂躙じゅうりんする暴風のうねりが混じり合い、相乗効果を生む。


 ピピの起こした嵐は、クゥが放った冷気を取り込み、吹雪となった。


 それは、さながら白の死神。魂すらも凍てつかせる氷結地獄ホワイトアウト


 ガルムたちが白い地獄にのみ込まれる。


 吹雪が晴れたとき、そこには白い世界と、無数の氷像のみがあった。

 木々も、大地も、ガルムも、大気すらも、等しく凍りついている。


 ピキピキと音を立て、ガルムの氷像が砕け散った。


 俺はふぅ、と息をついて、最後の念話を送る。


『作戦終了。みんな、おつかれさま』


 それは勝利の報告。


 俺たちは、妖精郷を救うことに成功した。

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