妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――5

 観念して温泉にかり直すと、三人はご満悦の様子で俺に密着してきた。


 ニコニコしながら鼻歌を奏でる三人とは対照的に、俺は欲望が暴れ出さないよう、素数を数えることに集中した。


 混浴やハーレムは男の夢だと思っていたが、実際にやってみると、ひたすらに精神を消耗しょうもうするだけだった。


 そんな試練をなんとか乗り切った俺は、


「ゴシゴシ♪」

「シルバさま、力加減はいかがですか?」

「う、うん、ちょうどいいよ? ピピはどう?」

「ん。気持ちいい」


 更なる試練に直面していた。


 温泉の脇で腰かけた俺の背中を、クゥとミアがタオルで擦っている。

 そして俺は、ピピの背中を洗っていた。


 なぜこんなことになっているのかといえば、


「みんなで洗いっこしようよ!」


 とクゥが提案し、


「いいですね、是非そうしましょう!」

「クゥ、グッジョブ」


 と、ミアとピピが一も二もなく賛成したからだ。


 俺としてはたまったものじゃなかったが、反論することはできなかった。もし拒んだら、また三人に抱きつかれ、懇願こんがんされるんじゃないかと危惧きぐしたからだ。


 先ほどは欲望にあらがえたが、次も耐えられる保証はない。


 理性の決壊を恐れた俺は、


「そうだね……お手柔らかに……」


 と項垂うなだれるほかなかった。


 三人は、特に俺に洗ってほしいそうで、ピピを一番手として順番待ちしている。つまり、俺は三人の裸体を隅々すみずみまで洗わないといけないわけだ。


 そこで俺はふと思った。


 あれ? 断るにしろ引き受けるにしろ、俺、詰んでるんじゃないか?


 気付いて俺は愕然とした。


 どちらにしろ邪神降臨よくぼうぼうそうの危機!? 俺の未来は宿命付けられていたのか……!!


「パパ。今度は、前、洗って?」


 おののいていると、ピピが立ち上がり、くるりとこちらを向いた。


 ピピの幼い胸が、尖端せんたんの桜色が、汚れない秘部ひぶが眼前にさらされ、俺は慌てて顔をそむける。


「どうしたの? 顔、赤いよ?」

「どどどどうもしないよ!?」


 嘘だ。どうにかなってしまう寸前だ。


 俺は荒ぶる鼓動と獣欲じゅうよくを深呼吸で鎮め、「誠心誠意せいしんせいい煩悩退散ぼんのうたいさん!」と心のなかで繰りかえしながら、ピピの体に触れる。


 タオル越しにピピの感触が伝わってきた。


「ん。パパの手、優しい」


 緊張に震えながらタオルで擦っていると、ピピが心地よさそうに目を細める。


「あれ? ご主人さま、真っ赤になってる」

「力を入れすぎたのでしょうか? クゥさん、もう少し優しく擦りましょう」


 俺の背後で、クゥとミアが戸惑っている。


 言えない……ピピの体を洗いながら興奮しているなんて、死んでも言えない……!!


 罪悪感に殺されそうになりながらも、俺はなんとかピピのお腹を洗い終えた。


「パパ、次は、ここ」


 ピピが自分の胸を示す。


 わずかな膨らみもない未成熟な胸。尖端の蕾は小豆あずきほどで、淡く色付く輪郭りんかくもとても小さい。


 思わず生唾なまつばを飲んでしまい、俺はハッとした。


 おおお俺はなにを考えているんだ! ピピは純粋に体を洗ってほしがってるだけなんだぞ!? ここで欲情したら、完全に裏切り行為だろうがっ!!


「パパ、なんで、自分の太もも、つねってるの?」

「邪神を鎮めるためだ……!!」

「変な、パパ」


 ピピがコテンと小首を傾げる。


 この純真無垢じゅんしんむくな女の子を傷つけないため、なにがなんでも邪神よくぼうに抗え、俺ぇええええええええええっ!!


 なんとか痛みで邪神よくぼうを抑えた俺は、大きく息をついて、おそるおそる、ピピの胸にタオルを当てた。


 プニ


「んっ」


 ピピが鼻声を漏らし、俺は弾かれたように手を放す。


「だ、大丈夫か?」

「ん、大丈夫。だから、続けて?」


 相変わらずの無表情で、ピピがコクンと頷いた。


 こっちはまったく大丈夫じゃないんだが、俺は務めを果たすべく、改めてピピの胸を擦りはじめる。


 ピピの胸は全然膨らんでいないのに、ちゃんと柔らかくて弾力もあり、「大小問わず、女の子の胸は柔らかいものなんだなあ」と、俺は変な感動を覚えてしまった。


 前世でこの場面を目撃されたら、確実に性犯罪者のレッテルが貼られるな。幼女の胸を洗うなんて、倫理の崩壊もはなはだしい。


「ふぁ……ん……❤」


 ところでピピさん? さっきから妙になまめかしい声が聞こえるんですが、本当に大丈夫なんですか?

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