妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――4

 ニアヴのおもてなしは想像以上に豪勢だった。


 晩餐ばんさんでは、めったに食べられないフルーツや、希少な木の実など、森の恵みがきょうされ、妖精たちのまいが俺たちを楽しませてくれた。


 そして、ご馳走ちそうのあとに待っていたのは、


「まさか温泉にかれるなんてなあ」


 俺はしみじみと呟いた。


 そう。妖精たちは、自然をつかさどる能力で温泉を用意してくれたんだ。


 乳白色の湯に浸かりながら、俺は夜空を仰ぐ。


 夜空にはきらめく星屑が散りばめられており、さながら宝石の博覧会のようだった。


「露天風呂なんて、日本人の魂に染み渡るなあ」


 ミズガルドにおいて、風呂はかなり贅沢な文化だ。少なくとも、庶民のあいだには浸透していない。


 濡れタオルで体を拭くか、水浴びをするのが一般的で、豪商などの金持ちでも、シャワー風の魔導具まどうぐで済ませていると聞く。


 転生してから、俺は一度も入浴できていないので、ここで温泉に浸かれたのは僥倖ぎょうこうだ。


 至れり尽くせりのもてなしに、俺は体を弛緩しかんさせて、「はふぅ」と溜め息を漏らした。


「ここまでしてくれたんだから、その分の仕事はしないとなあ」


 ひとりごちて、俺は自嘲を浮かべる。


「まあ、ほとんど三人頼りになるんだろうけどね」


 今回の相手はガルム。Bランク相当の魔獣だ。とてもじゃないが、Dランク冒険者の俺が敵う相手じゃない。


 ここでの俺はお荷物だ。せめて、みんなの足を引っ張らないようにしないとな。


 ぼんやりと考えて、俺はブンブンと頭を振った。


「いや、こんな弱気じゃダメだよな」


 後ろ向きな思考を打ち消すべく、俺はバチン、と両手で頬をはたく。


 自分が大した人物じゃないことは、自分が一番わかっている。


 けど、ふて腐れるのは、なしだ。


 こんな俺でも、クゥは、ミアは、ピピは、ついてきてくれている。一生懸命、尽くしてくれている。


「クゥが言ってくれたじゃないか、『ご主人さまだから恩返しにきた』って。みんなは俺を認めてくれているんだ」


 だからこそ、


「俺は、みんなのあるじとして相応しい男になろう。もっともっと強くなろう」


 俺はグッと拳を握って決意した。




「わーっ! 最高のロケーションだねーっ♪」




 聞き慣れたはしゃぎ声が届いたのは、直後だった。


 俺はピシッと凍りつく。


「なんとも風流ですね」

「ん。お星さま、キレイ」


 さらにふたり分の声がして、温泉の熱とは無関係に汗がこぼれ落ちた。


 びついたようにぎこちない動きで、声のしたほうに顔を向け、俺は「ぶふぅっ!?」と吹き出す。


「ご主人さまーっ! 湯加減はどう?」

「わたしたちもお風呂をいただきにきました」

「一緒に入ろ?」


 そこにいたのは、生まれたままの姿になった三人だ。


 大玉果実をタップンタップン揺らしながら、ブンブンと腕を振るクゥ。

 ハリのあるお椀型の胸をさらし、しとやかに微笑むミア。

 成長途中の幼い肢体したいあらわにし、とてとてと歩いてくるピピ。


 彼女たちは恥じらいひとつなく、堂々としていた。


 胸のいただきにある桜色のつぼみも、女の子の一番大事な場所も、まったく隠そうとしない。


「どどどどうしてここに!? 俺が入ってるの、知ってたよね!?」

「もちろん! だからこそ来たんだよ!」

「文脈がおかしい! そこは、だからこそやめとくだろ!? 俺は男で、みんなは女! 三人とも恥じらいを持ちなさいっ!」

「シルバさまと湯浴ゆあみするには、恥じらいなど邪魔なだけです」

「邪魔じゃないよ!? 最低限のモラルだよ!?」

「問題ない。ピピたちは、身も心も、パパに捧げてる」

「その認識が大問題なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 平然と答える三人に、俺は絶叫した。


 ダメなんだよ! みんなにとっては『俺=あるじ みんな=ペット 性的な欲望=皆無かいむ』だろうけど、俺にとっては『俺=男 みんな=魅力的な女の子 性的な欲望=常に抑えこんでいる』なんだからさ!


 愕然がくぜんとしているうちに、三人はお湯に足をひたし、俺のもとに歩みよってくる。


 小柄な体に、たわわな胸を実らせたクゥが、

 均整きんせいの取れた、スレンダーな肢体のミアが、

 危うさすら感じさせる、幼児体型のピピが、


 いずれも美しい三人の全裸が迫ってくる。


 興奮・歓喜・背徳感・罪悪感……様々な感情がごった煮になって渦巻き、俺はたまらず回れ右した。


「お、俺は充分温まったから、もう上がるね?」

「ご主人さま、待って!」


 慌てて立ち去ろうとした俺を止めようと、クゥが抱きついてくる。


 ムニュン


 俺の背中に、極上の水まんじゅうみたいにネットリ柔らかい、ふたつの膨らみが押しつけられた。


「ククククゥ!?」

「上がっちゃヤだっ! 一緒に入ろうよ!」


 膨らみの中心にあるふたつのが、クニッ、と背中に擦りつけられる。


 の正体がわかってしまい、俺の頭はオーバーヒート。思考も体もフリーズ状態におちいった。


 硬直した俺の左腕に、ミアが密着してくる。


 かたちのよい双丘そうきゅうが、フヨン、と俺の左腕を挟み込んだ。


「わたしたちは、シルバさまと湯浴みするのを楽しみにしていたのです」


 切なく潤むエメラルドの瞳が俺を捉える。


 俺の心臓のBPM(一分間の心拍数)は、ゆうに二〇〇を超えていた。


「ととととは言ってもね? 混浴は流石さすがにマズいと思うわけでして……」


 最後の抵抗を試みる俺の前に、ピピが回り込んでくる。


「お願い、パパ」


 ピピまでもが抱きついてきて、俺の下腹部にプニプニしたお腹が押し当てられた。


 俺の全身が、ムニュムニュと女体にょたいでマッサージされている。


 グルグルと回る視界。


 俺はパクパクと、酸素を求める金魚みたいに口を開け閉めした。


「ご主人さま」

「シルバさま」

「パパ」


 三人の甘える声が耳朶じだをくすぐる。


 下半身に血流が集まってきて、俺はついに音を上げた。


「わかった、一緒に入ろう! だから、抱きつくのはやめてくれぇええええええええええええっ!!」

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