妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――3
「ここが妖精郷よ!」
「「「「おおーっ!」」」」
得意げに両腕を広げるフォルに、俺たちは感嘆の声を返した。
霧が晴れた先、視界に飛びこんできたのは、広大な花畑だった。
ハーギス並の面積の土地が、様々な種類の花で埋め尽くされている光景は、圧巻の一言だ。
花畑の中央には、転生してから見てきたどの建物よりも高い、大樹がそびえ立っている。
「もの凄く広いな。アマツの森にこんな場所があるなんて知らなかったよ」
「妖精郷は地上とは別の
なるほど。別位相にあるからこそ、ここまで広大な領地を築けたわけか。霧の結界も含めて、妖精郷は不思議がいっぱいだ。
説明していたフォルが、「さあ」と大樹を手で示す。
「『カメロトの
○ ○ ○
カメロトの大樹は、妖精たちの居住区らしい。
その幹は
カメロトの大樹のなかは
俺たちは階段を上り、最上部に位置する枝にたどり着いた。
「フォル、その方々は何者ですか?」
小窓が並ぶ空洞の先には、花籠のような
ウェーブのかかった、金色に
花束を
「ニアヴィーアさま、彼は人族のシルバ。そして、こちらの三人は、神獣のクゥ、ミア、ピピです」
「人族を妖精郷に招き入れるなど、なんのつもりなのです?」
ニアヴィーアと呼ばれた妖精女王は、幼女のように高い声音ながら、幼女とは思えないほど厳しい声つきで、フォルを
見た目は幼女そのものだが、中身はずっと大人びているようだ。
「人族が信用ならないことなど、あなたはわかりきっているでしょう?」
ニアヴィーアさまが冷淡な眼差しを俺に向ける。
明確な敵意を示すニアヴィーアさまに、クゥが不機嫌そうな顔をした。
(ご主人さまのことなにも知らないくせに!)
(待った待った! ここで女王さまを怒らせても面倒事にしかならないよ!)
(そうですよ、クゥさん! 正直、わたしも
(ミア、お願いだから
「お待ちください女王さま! 彼らを招いたのには理由があるんです!」
いまにもニアヴィーアさまに突っかかりそうなクゥと、こめかみに青筋を立てているミアをなんとか引き止めていると、フォルが
「彼らは、妖精郷を救うと約束してくれたんです」
フォルが事情を語りはじめると、ニアヴィーアさまは黙って耳を傾け、説明が終わる頃には、トゲトゲしさも鳴りを潜めていた。
「そういうことだったのですか……そうとは知らず、
「い、いえ! 妖精たちが人族・亜人族を警戒していることは、フォルにうかがっていますから!」
シュンとした顔をするニアヴィーアさまに、俺は慌てて首を振った。
「ニアヴィーアさまが俺たちを敵視するのも当然だと思いますし、お気になさらないでください」
「あなたは優しい方なのですね」
俺が
「改めて、わたくしからもお願いさせていただくのです。どうか、妖精郷をお救いください」
「わかりました。お任せください」
頭を下げるニアヴィーアさまに、俺は胸をドンと叩いて
「感謝いたします。せめてものお礼に、妖精郷に滞在されているあいだは、最大限のおもてなしをさせていただくのです」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます、ニアヴィーアさま」
「ニアヴ、で構いません」
礼をする俺に、ニアヴィーアさまがにこやかな声をかけてきた。
「親しい者は、わたくしをそう呼ぶのです。あなた方は妖精郷を救うと約束してくださいました。ですから、どうかかしこまらず、友人のように接していただきたいのです」
「わかりました、ニアヴさま」
「敬語は禁止なのです」
注意され、俺は苦笑いしつつ頬を
「えっと……わかったよ、ニアヴ。これでいいかな?」
「はい! バッチリなのです!」
少しだけ緊張していた俺に、ニアヴはパチッとウインクする。
そのお茶目な仕草に敵意は微塵もなく、友愛だけが込められていた。
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