神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――5

 仲間が増えるということは、必要となる生活費も増えるということだ。

 そう判断し、俺たちは午後も討伐にあてることにした。


「まずは、ミアとピピのスキルを見せてくれないか?」


 そのうえで、俺は新しい仲間の力を把握すべく、ミアとピピに頼んだ。


 ミアとピピはそれぞれ、「はい」「ん」とうなずく。


「じゃあ、ピピから、ね」


 言いながら、ピピが、馬より一回り巨大なおおとり――神獣形態となる。


 両翼を羽ばたかせ、ピピが大空に舞いあがる。


 次の瞬間、ピピの姿がえた。


「……は?」

「あれ? ピピ、どこ行ったの?」


 ポカンとする俺とクゥに、ミアがクスクスと笑う。


「これがピピさんのスキルですよ」

「透明化とか?」

「ううん。違う、よ」


 問い返す俺に答えたのは、ミアじゃなかった。


 見上げると、消えていたピピが、再び姿を現している。


「はい。パパ、どうぞ」


 ゆっくりと降りてきたピピが足指あしゆびを広げた。


 コロコロと、六つの魔石が地面に転がる。


 俺は目を丸くして、魔石とピピを交互に見やった。


「いつの間にこんなにとってきたんだ? そもそもどこから?」

「いま、森のなかから」


 唖然としながら尋ねた俺に、人型に戻りながら、ピピが事もなげに答える。


「ピピのスキルは『神速しんそく』。スッゴく速くなる、の」


 俺は絶句した。


 てことは、ピピが消えたように見えたのは、速すぎて目がついていかなかったから? ピピは超高速で森を飛び回り、この一〇秒足らずのあいだに、六体のモンスターを倒してきたってことか?


「パパ。ピピ、スゴい、でしょ?」


 ボンヤリとした顔付きに、どこか自慢げな色を覗かせながら、ピピが真っ平らな胸を「エッヘン」と張る。


「あ、ああ、ビックリしたよ。ピピはスゴいな」


 いまだ驚きが抜けきらないなか、俺はピピの頭を撫でる。「ん♪」とピピが幸せそうに目を細めた。


「では、次はわたしの番ですね」


 ピピを褒めている俺の隣で、ミアが地面に手をかざす。


 すると、地面に銀色の輝きが広がり、浮き上がるようにして、二つの装備品が現れた。片刃の長剣と、胴体部分を守る鎧だ。いずれも白金はっきんのような光沢をしている。


 なにもないところから装備品が出現し、俺は呆気にとられてしまった。


「シルバさまに差し上げます」


 言葉を失っている俺に、ミアが長剣と鎧をヒョイ、と拾い上げ、手渡してくる。


 受けとると、二つの装備品のあまりの軽さに、俺はさらに驚愕した。


「この軽さ、まさかミスリル!?」


 ミスリルとは、特定の鉱山からしか産出されない超常金属だ。


 鉄以上に強靱きょうじんであるにもかかわらず、木材よりも遥かに軽いミスリルは、素材として一級品で、『ミスリル装備は一流戦士の証』と称されるほどだ。


「わたしのスキルは『武具創造ぶぐそうぞう』。金属製の武具を自由に生み出すスキルです」


 俺は我が耳を疑った。


「も、もしかして、さっきモンスターの群れを一掃いっそうした槍は――」

「はい。わたしのスキルで生み出したものです」


 ニコリと微笑むミアに、俺は思わず「はは」と笑みを漏らした。


 ミアもピピも凄まじすぎる。


『神速』スキルは、『闘技とうぎ』スキル保有者が扱う上級闘技、『縮地しゅくち』すら超える速度で、しかも瞬間的にしか発動できない『縮地』と異なり、常在型能力じょうざいがたのうりょくのようだ。単純なスピード勝負で、ピピに敵うものはどこにもいないだろう。


『武具創造』スキルに至っては、『鍛冶かじ』スキルの完全上位互換じょういごかん。素材も作業も必要とせず、戦闘中にも扱えるなんて反則もいいところだ。


「ミアもピピもスゴいねーっ!」


 同じくチート級スキル保有者のクゥが、キャッキャッとはしゃいでいる。


 俺は戦慄を覚えずにいられなかった。


 まったくもってクゥの言うとおりだ。俺の仲間たちはスゴすぎる。もはや笑うしかないよ。


「ミア、ミスリル装備、ありがたく使わせてもらうよ」

「いえ、シルバさまのお役に立てるなら、これ以上に嬉しいことはありません」

「ピピも頼りにしているよ?」

「ん。パパのために、頑張る」


 頼もしすぎる仲間たちとともに、俺は午後の討伐へと向かった。

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