神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――6

 夕方。冒険者ギルド。


「……シ、シルバさん? これは、な、なんでしょうか?」

「えっと……魔石ですね」

「ふ、増えてませんか? 昨日より、明らかに」

「ですね。自分でもおののいています」


 俺とレティさんは、どことなく覚えのあるやり取りをしていた。


 受付カウンターには、昨日のそれよりうずたかい、魔石の山が積まれている。


 自分でとってきてなんだが、やり過ぎた感がハンパない。


「しかも……そ、そちらのおふたりは、もしかして……」

「新しい仲間で、神獣のミアとピピです」


 レティさんが震える指で示したので、俺はミアとピピを紹介する。


 ミアとピピに「「はじめまして」」とお辞儀じぎされ、レティさんは顎が外れそうなくらいあんぐりと口を開けた。


 レティさんが驚くのも無理ないよな。俺が彼女の立場だったら、間違いなく目眩めまいを起こしているよ。


「……『使役』、されているんですよね?」

「ええ、まあ」

「ど、どういった経緯で?」

「アマツの森で再会しまして」

「わたしたちは、シルバさまに恩義がありますので」

「ん。ピピも、ミアも、恩返し」


 俺の説明に、ミアとピピが続く。


 俺たちの話を聞いて、レティさんは、「再会? 恩義? 恩返し?」 とうわごとのように呟いていた。


 軽くフラついている様子から察するに、あまりに意味不明な事情を聞いて、頭がオーバーヒートしているのだろう。


「聞いたか? あいつ、神獣に恩売ってたらしいぞ?」

「どんな状況になればそんなことできんだよ! 神獣は、人族・亜人族なんか足もとに及ばねぇほど強大なんだぞ!?」

「しかも、見て。彼の装備、変わっているわ」

「あの光沢はミスリルだよな? あいつ、昨日冒険者になったばかりだろ?」

「あり得ない……ルーキーがミスリル装備を手に入れることも、まして、神獣と親しい関係になることも……」

「もしかしてあいつ、王国騎士なんじゃないか? もしくは、身分を隠したSランク冒険者とか」

「王国騎士でもあんな規格外のやついねぇよ! それに、Sランクの冒険者だとしたら、なんで身分を隠すんだよ!」


 昨日に引き続き、ロビーの冒険者たちがどよめいている。


 やいのやいのと言い合う冒険者たちのあいだでは、様々な臆測おくそくが飛びかっていた。


「どうでもいいから、とっとと確認してくれない?」

「ひぃっ! ススススイマセン!」


 不機嫌そうに催促さいそくするクゥに、レティさんが、ビクゥッ! と肩を跳ねさせる。


 毎度のことながらスミマセン、レティさん。




     ○  ○  ○




 今回の確認には、五〇分もの時間をようした。


 待ちかねたクゥがかし、レティさんが震え上がり、俺とミアがなだめるというパターンを四回繰りかえしたのち、


「こ、こちらが、今回の報酬になります」


 信じられないと言いたげな顔付きで、レティさんがカウンターに六枚の金貨を載せた。


 金貨一枚=一万セルなので、合計六万セル。


 日本円に換算して約六〇万円という収益しゅうえきに、俺も唖然とするほかない。


 本来、レッドキャップ討伐の報酬は一二〇〇セルなので、五〇倍の成果を出したことになる。


「ま、また、一五〇〇ポイントが加算され、必要ポイントに達したことで、シルバさんはDランクに昇格となります」


 ロビーで騒いでいた冒険者たちや、ヒソヒソ話をしていた受付嬢たちが静まり返り、ギョッとした目でこちらを見た。


「えっと……これも、スゴい記録だったりします?」


 頬をきながら尋ねると、強張こわばった笑みでレティさんが答える。


「登録二日目でのDランク昇格は、前代未聞です。古今未曾有ここんみぞうの出来事です」


 俺の頬も引きつった。


「もしかして、史上初とか?」

「……わたしは夢でも見ているのでしょうか?」


 呆然と頬をつねるレティさんを見て、「あ、これマジだ」と俺は確信した。


 どうやら俺は、前人未到の大記録を打ち立ててしまったらしい。


「ミア、ピピ、やったね♪」

「ええ、シルバさまのお役に立てましたね♪」

「これからも、みんなで頑張ろう、ね♪」

「「「お――――っ♪」」」


 三人の抱負ほうふを耳にして、ギルドの職員も冒険者たちも言葉を失っている。


 レティさんの言葉を借りれば、俺もまた、夢でも見ているような気分だった。

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