神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――4

 俺は前世で複数の動物を助けている。そのなかにいたのが、猫のミアと小鳥のピピだ。


 飢え死にしそうになっていたところを保護したのがミアで、巣から落ちていたところを保護したのがピピだ。


 どうやらふたりとも、クゥと同じように俺に恩返しがしたくて、ディアーネさんに頼み、神獣としてミズガルドに転生させてもらったらしい。


「銀二さま――いえ、シルバさまを探す旅路たびじで、わたしとピピさんは出会ったのです」

「ミアも、ピピと一緒、パパが好き。だから、仲間」


 ミアが説明し、ピピが同調するように頷く。


 ミアの見た目は一五歳くらい。俺よりあとに転生したから年下なのだろうが、随分ずいぶんと大人びていた。


 三人のなかでもっとも背が高く、頭のてっぺんは俺の肩くらいだ。


 整った細面ほそおもては涼しげで、所作しょさもどことなく洗練されている。


 スレンダーな肢体したいにまとうのは、白地に赤い花柄の、裾の短い着物のような衣装だった。たしか、東の大国『タオ』の民族衣装だ。


 ピピは、ミアと真逆でとても子どもっぽい。


 まったくと言っていいほど起伏きふくのない体付きで、見た目は一〇歳くらい。もはや幼女だ。


 幼い顔立ちには表情らしいものが浮かんでいないが、さっきほんの少しだけ微笑んだことから察するに、感情を表現するのが苦手なだけだろう。


 身につけているのは、袖なしのシャツとショートパンツ。膝から下は鳥の足になっている。


「事情はわかったよ。それはともかくとして、早くご主人さまから離れてってば!」


 クゥが目を三角にして、肩を怒らせている。


 多分、ヤキモチを焼いているんだろう。ミアとピピは、事情を説明しているときからずっと、俺に密着しているんだから。


 俺としても美少女にすり寄られるのは緊張するので、できればクゥの言うことを聞いてほしい。


「クゥさんは、ずっとシルバさまと一緒にいらしたのでしょう? せめていまだけは、わたしたちに譲ってはくれませんか?」

「ダメダメダメダメ、ぜぇ――――っったいダメっ!!」


 クゥが、プクゥっと頬をむくれさせた。


「ご主人さまは絶対にあげないんだからっ!!」




     ○  ○  ○




 一〇分後。


「それでね? それでね? ボクがボールをくわえてきたら、『よくやったね』って、ご主人さまがほっぺをムニムニしてくれたんだよ!」

「わたしがお膝の上で眠ったときも、シルバさまは決してとがめることなく、穏やかに微笑んでくれました」

「ん。パパは、優しい。ピピも、パパによくなでなでしてもらった。とっても、幸せな気持ちになる、の」

「ミアもピピもわかってるね!」


 三人は超仲良くなっていた。


 輪を作って座りながら、まるで姉妹のようにニコニコ笑い合っている。


 思い出話をするうちに、ミアとピピがいかに俺をしたっているのかを知って、クゥのなかで仲間意識が芽生えたらしい。


 ……自分で言っといてなんだが、『いかに俺を慕っているのか』って、ナルシストっぽくてなんかイヤだな。


「クゥさんの首輪は、もしかして『使役』のあかしですか?」

「うん! ご主人さまは『使役』スキルを持ってるの! それで、ご主人さまのペットにしてもらったんだよ!」

「羨ましい……ピピも、パパのペットになりたい」


 ミアとピピが、宝物ほうもつを発見したような目で、クゥの首輪を眺めている。


 クゥはそんなふたりにニパッと笑いかけた。


「ミアとピピも一緒にペットになろう? いいよね、ご主人さま?」

「えっ? あ、ああ、できればそうしたいけど……」

「やった♪ じゃあ、さっそく『使役』してあげて?」


 いきなり話を振られ、思わずうなずくと、ミアとピピが瞳をキラキラ輝かせた。


「では、お願いいたします♪」

「パパのペットにして♪」


 スッと頭を差し出すふたりを前に、俺は渋い顔をして頭をいた。


 参ったなあ。クゥのケースは明らかに偶然だから、ミアとピピを『使役』できることは、まずないんだけど……。


 チラリと横目でうかがうと、クゥがワクワクと期待に満ちた顔をしている。


『使役』が成功することを微塵も疑っていないような表情を目にして、ふと、クゥの言葉が蘇った。




 ――そんなの問題にもならないよ。ボクはご主人さまに『使役』されたいって思ってるんだから、成功するに決まってるじゃん!




 もしかしたら、クゥの意見は正しいのか?


 自惚うぬぼれじゃなければ、ミアとピピも、クゥと同じくらい俺に『使役』されたがっている。


 仮に、対象者の好感度や意志が、『使役』の成功率に影響を及ぼすとしたら、ミアとピピを『使役』できるんじゃないか?


 仮説を立て、俺は思い切って左手をかざした。


「『使役』」


 左手の紋章が輝きを放ち、輝きがドンドン増していき、光の粒子が舞いはじめ、


 カチャカチャッ


 ミアとピピの首元で、革製の首輪ができあがった。


「やったー♪ これで、ふたりとも仲間だよ♪」

「わたしがシルバさまのペットに……」

「これからずっと、パパと一緒」


 喜色満面きしょくまんめんでピョンピョン跳びはねるクゥ。

 たおやかに微笑みながら、愛しげに首輪を撫でるミア。

 頬を桜色に染めながら、口端くちはしをかすかに上げるピピ。


「やった♪ やった♪」と輪になってクルクル回る三人を眺めながら、俺は確信していた。


 仮説は当たっていた。俺は、前世で助けた動物たちを――神獣に転生した子たちを、『使役』できるんだ。


「ミアとピピもペット仲間っ♪」

「シルバさまのペット仲間っ♪」

「ずっとずっとペット仲間っ♪」


 それはそうと、『ペット仲間』って、犯罪臭はんざいしゅうがものスゴいな。

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