神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――3
「必要な魔石を集め終えたから、冒険者ギルドに戻ればクエストは達成だ」
「けど、まだお昼になったばかりだよ? 昨日より時間があるよ? いっぱい倒せば、報酬を上乗せしてもらえるんだよね?」
「うん。だから、あとはどれだけ体力が残っているかを考えて――」
俺とクゥが相談していると、不意に大きな影が差した。
何事かと見上げると、
空に溶けるように青い、翼をはためかせる鳳の姿に、俺はギョッと目を
「神獣『スィームルグ』!?」
フェンリルであるクゥと同格の存在。鳳の神獣スィームルグが、なぜか俺たちの頭上を飛んでいる。
悠々と大空を舞うスィームルグに、俺はあんぐりと口を開けた。
「――ミア。パパ、いたよ?」
呆然としていると、スィームルグが言葉を発した。
喋った! 『ミア』ってやつに向かって? あのスィームルグには仲間がいるのか? ていうか、『パパ』って誰のこと?
よくわからない状況に混乱していると、クゥがクイッと袖を引いてきた。
「ご主人さま、モンスターが近づいてるよ!」
「神獣の次はモンスター!?」
「うん。それも、いっぱい!」
クゥが忠告した直後、森のなかから大量のモンスターが跳びだしてきた。
レッドキャップにゴブリン、ウィル・オ・ウィスプまでいる。
モンスターの集団を迎撃すべく、クゥが神獣形態になる。
俺も慌てて立ち上がり、ロングソードを引き抜いた。
乱戦を覚悟して奥歯を噛みしめた直後、地面から
「な、なにが起きたんだ?」
浮世離れした光景に、俺は
俺が立ち尽くしていると、森のなかから巨大な
真っ白い毛並みに黒い紋様。神獣形態のクゥと同じくらいの
「今度は『
おそらく、スィームルグが話しかけていた『ミア』とは、あの白虎のことなのだろう。
神獣を
そもそも、別種の神獣が行動をともにするなんて聞いたことがない。異なる種類の神獣でも、仲間意識はあるのか?
ん? ていうか、『ミア』って名前、なんとなく覚えがあるんだけど……
頭をひねる俺の思考は、すぐに中断された。
白虎が槍のあいだをすり抜けて、猛スピードで迫ってきたからだ。
「ご主人さまはボクが守るっ!」
息をのむ俺を
フェンリルのクゥすらも
「ご主人さまっ!!」
白虎に見とれていた俺は、クゥの悲鳴で我に返る。
しかし、あまりにも遅すぎた。一直線に迫る白虎からは、どう
白虎の迫力に気圧されて、俺は「ぐぅっ!」と
走るスピードはそのままに、白虎の体が徐々に人型に近づいていき、やがて
処女雪のように白い、長髪をなびかせる美少女は、エメラルドの瞳をキラキラと輝かせながら、
「ようやく見つけましたぁ――――――――っ!!」
「デジャブっ!?」
どこぞの
クゥと再会したあの場面を再現するかのように、俺は白虎の少女に押し倒されてしまう。
「ああ、銀二さま! ようやく……ようやく、会えました!」
猫耳と尻尾をピコピコさせながら、白虎の少女が瞳を潤ませ、スリスリと俺の胸に頬ずりしてくる。こんなところまでクゥとそっくりだ。
「ミア、見つけたのは、ピピ。パパをひとり占めするの、ズルい」
どことなく拗ねたような声が頭上から聞こえる。
視線をやると、
青空色のツインテールを持つ、幼女と呼ぶべき小柄な女の子だ。
彼女の髪と、翼のかたちをした両腕は、先ほどのスィームルグと同じ色だった。
『見つけたのはピピ』との言葉を
唇を尖らせていたスィームルグの少女は、俺の隣に寝転がり、体をすり寄せてきた。
「ん……パパの匂い、好き」
ぼんやりとした
え? なに、この状況?
平凡極まりない俺の頭脳では処理しきれない。混乱が極限に達し、俺は完全にフリーズしてしまった。
「ねえ? ご主人さまから離れてくれる?」
冷ややかなクゥの声がする。
犬人族の姿になったクゥが、仁王立ちしながらふたりの少女を睨みつけていた。
常人なら気絶しそうな重圧のなか、
「はしたないところをお目にかけました。ですが、わたしもピピさんも、銀二さまとは
白虎の少女はおっとりとした口ぶりで応じ、なおも俺の胸に頬をすり寄せる。
スィームルグの少女に至っては、完全にクゥを無視して、「くんかくんか」とひたすら俺の匂いを嗅いでいた。
「ああっ、またスリスリしてるぅ――っ! くんくんしてるぅ――っ! ボクもしたいのにぃ――――っ!!」
そんななか俺は、白虎の少女の言葉を
久方ぶりの再会? 俺を銀二さまと呼ぶ『ミア』……それから、『ピピ』……?
俺はハッと目を見開く。
「もしかして、猫のミアと小鳥のピピか?」
尋ねると、白虎の少女がぱあっと顔を輝かせ、スィームルグの少女が
「覚えていてくださいましたか!」
「ピピも、ミアも、パパに助けてもらった子、だよ」
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