神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――2

 午前いっぱいを討伐にあてた俺とクゥは、すでにクエスト達成分の魔石を集め終えていた。


 昼過ぎ、俺たちは一旦いったん周辺部の草原まで戻り、休憩をとっていた。


「はい、クゥ。お昼ご飯だよ」

「ほわぁ……っ」


 持参したサンドイッチを差し出すと、クゥは感嘆の息を漏らし、瞳を輝かせる。


「美味しそーっ!」

「手作りだけど、一応、自信作だ」

「ご主人さまの手作りっ!」


 ガーネットの瞳がますます煌めく。


 クゥはサンドイッチを受けとると、期待に満ちた視線を俺に向けた。ブンブン振られる尻尾が、「もう待ちきれないよ!」と訴えている。


 まさにわんこ。飼い主からの、「食べてよし!」の指示を待つ忠犬だ。思わず、クスッと笑みを漏らしてしまった。


「それじゃあ、食べようか」

「うん! いただきまーす♪」


 クゥが大きく口を開け、サンドイッチにかぶりつく。


 一口で三分の一を頬張ったクゥは、もっきゅもっきゅとリスみたいに頬を膨らませ、咀嚼そしゃくする。


「んーっ♪」と幸せそうに目を細める様子が可愛くて仕方がない。


 ゴクンと飲み込むと、クゥは満面の笑みを俺に向けた。


「美味しい! スッゴく美味しいよ、ご主人さま!」

「口に合ったならよかったよ」

「うん! いままで食べたサンドイッチで一番美味しい!」

「あはは、大袈裟おおげさだなあ」

「大袈裟じゃないよ! 毎日食べたいくらいだもん!」

「クゥが食べたいならいつでも作ってあげるよ」

「ホント!? やったーっ♪ ご主人さま、大好きっ」


 子どものようにはしゃぎながら、クゥがサンドイッチをさらに頬張り、嬉しそうに体を揺らしている。


 これだけ美味しそうに食べてくれたら、作った甲斐かいがあるというものだ。


 微笑ましい気持ちになりながら、俺もサンドイッチを一口かじる。


 うん。シャキシャキレタスとジューシーなトマトに、ハムの塩味がちょうどいい。


 そしてやはり、『あの調味料』のポテンシャルはすさまじいな。作り方を覚えていて、本当によかった。


 うんうん、とうなずきながら味わっていると、クゥがこちらを見ていることに気付いた。


 クゥの手にはすでにサンドイッチはなく、パンくずだけが口の周りについている。


 クゥの視線は俺が持つサンドイッチに注がれており、口元からは、いまにもヨダレが垂れそうだった。


 羨ましげにサンドイッチを眺めるクゥに、俺はおかしくてたまらず、「くすくす」と笑ってしまった。


「食べる?」

「いいのっ!?」


 俺がサンドイッチを差し出すと、クゥがぱあっと顔を輝かせ、しかし直後に、「あ……」とションボリ耳を伏せた。


「でも、これはご主人さまの分だから……」

「遠慮しなくていいよ。クゥにはいつも助けてもらっているからね」


 言いながら、俺はサンドイッチをクゥに手渡す。


 チラッと俺をうかがうクゥに、俺はニッコリ笑いかけた。


「これからもよろしくね、クゥ」


 頭を撫でると、クゥが顔をほころばせる。


「うん! これからもいっぱいいっぱいお役に立つからねっ! ずっとずっとご主人さまの側で頑張るからねっ!」


 約束して、クゥがサンドイッチにかぶりついた。


 本当にクゥは可愛いなあ、健気だなあ、俺にはもったいないくらい素晴らしい子だよ。


 クゥが無我夢中でサンドイッチを頬張り、頬に手を当ててじっくりと味わっている。


 穏やかな気持ちでクゥを眺めながら、俺ははたと気付いた。


 あれ? いまさらだけど、これって間接キスじゃない?


 自然とクゥの唇に目がいった。

 ふっくら柔らかそうで、桃の花みたいな唇。


 カアッと顔が火照ほてりだす。


 サンドイッチを食べ終えたクゥがこちらを見て、コテン、と首をかしげた。


「ご主人さま? どうかしたの?」

「へっ? いいいいや、なんでもないですよ!?」

「それにしては、声が裏返ってるよ?」

「そ、そんなことより、午後からの予定を立てようか!」


 慌てて話題を変えると、しばらく不思議そうにしていたクゥは、「うん、そうだね!」と気持ちを切り替えるように頷く。


 間接キスに言及げんきゅうされず、俺はホッと胸を撫で下ろした。

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