神獣は一体でも凄まじいが、三体になるとわけがわからない。――1

 袈裟懸けさがけに振るわれた鎌を、体を左に傾けて回避する。


 続く斜め斬りは右に避け、横の薙ぎ払いに対してはバックステップを踏んだ。


 Eランクに昇格した日の翌朝、俺はEランククエスト『レッドキャップの討伐』を受け、クゥとともにアマツの森のなかに踏み入っていた。


 レッドキャップは、ゴブリンが赤い帽子を被り、棍棒の代わりに鎌を手にしたような魔物だ。


 いま俺は、ひとりでレッドキャップと相対し、鋭い連撃を回避し続けていた。


 昨日、俺は自分で倒した分に、『経験値取得』によってクゥから受けとった分を加えた、大量の経験値を獲得した。


 経験値によって成長した俺の体は、これまでと比べものにならないくらいよく動く。

 レッドキャップはゴブリンよりもずっと凶悪なモンスターだが、一度として劣勢に立っていなかった。


 俺が距離をとったことで、レッドキャップは憤慨ふんがいしたように鎌を振り回しながら、突進してくる。


「――いまだ!」


 俺は迫るレッドキャップを見据みすえながら、タイミングを計って横に跳んだ。


 俺の背後には一本の木。


 猛然と突っ込んできたレッドキャップは、勢いを殺しきれずに木の幹に激突し、『ギャウッ!』と悲鳴を上げる。


 攻勢は逆転した。


 俺は体勢を崩したレッドキャップに駆け迫る。


 対し、レッドキャップは意地を見せた。フラフラと頭を揺らしながらも、鎌を振りあげて反撃してきたんだ。


 それでも俺は焦らない。


 振り下ろされた鎌をロングソードで受け止め、走り込んだ勢いのままショルダータックルをかます。


 吹き飛ばされたレッドキャップが尻餅をついた。


 流石さすがにもう反撃はできまい。


「はあぁっ!!」


 俺は唐竹割りを見舞い、レッドキャップを真っ二つに斬り裂いた。


 レッドキャップの亡骸なきがらが灰になり、魔石がコロン、と転がり落ちる。


 俺は「ふぅ」と一息をつき、額の汗を拭った。


「スゴいよ、ご主人さま! レッドキャップ相手でも完勝だったよ!」

「ありがとう、クゥ」


 俺の戦いを見守っていたクゥが、尻尾をブンブン振って、我がことのように喜んでいる。

 愛らしいクゥの様子に、俺は微笑みを浮かべた。


「ゴブリンよりずっと強いのに、全然危なげなかったね♪」

「うん。モンスターとの戦いに慣れてきたんだと思う」


 実際、視野が広がって、思考速度も上がった気がする。


 さっきの戦闘で、自分の背後に木が生えていることに気付き、突進してきたレッドキャップへのカウンターに用いたのがその証拠だ。


 子どもの頃から磨いてきた戦闘技術も扱えている。


 レッドキャップの反撃を受け止め、ショルダータックルで崩すまでの一連の流れが、自分でも驚くほどなめらかにできていた。


「俺、強くなってる」


 自然と頬がゆるんだ。


 ずっと続けてきた努力が実り、自分の成長を実感できる。

 こんなに嬉しいことはない。


「うん! ご主人さまはビックリするくらい強くなってるよ! この調子でガンガン行こう!」


 クゥが「えい、えい、おーっ!」と拳を突き上げている。


 俺は幸せ者だ。


 俺の成長を喜んでくれるひとがいる。隣で支えてくれる、最高のパートナーがいるんだから。


「そうだな、ガンガン行こう!」


 多幸感と高揚感に包まれながら、俺はクゥと同じように、「おーっ!」と拳を突き上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る