都会から田舎に赴任してきた兵隊さんが、到着早々えぐい事件に遭遇するお話。
どっぷりがっつりえげつないというか、完全に地獄の蛸壷と化した僻村の物語です。レビューを書くときは先にざっくり内容を紹介することが多いのですが、でもこの作品は非常に迷います。どう書いたものか……どんな話で、誰が何をどうしてどうなったのか、それはわかっているはずなのですが、でもいざ説明しようとすると指が止まってしまう。細部がくっきりわかっていない、というか、わかっているけどでもこれってもしかして自分が勝手に補完してるだけなんじゃ、という、つまり確証を持たせてくれない部分があちこちにあるような感覚。
この辺りが実にうまいというか、惚れ惚れするというかもう、浸れます。手品みたいな感覚。例えば作中に「モドキ」という何かが出てきますが、それがなんなのかははっきり明示されません。明示されないけど、でもわかるんです。ただ確証がない。確証はないけどでも「うわあえっぐい」と思わされる、そういうポイントが大きく小さく霧のように周りを取り囲んで、まるでどこか煙に巻かれるみたいな感覚でありながら、でもそのうちにしっかり結末へと導かれている。読み通して得た手応えはただ重く仄暗く、でもそれはこの小説によるものではなく、もしかして自分の中から生まれた怪物ではないかと、その恐れを捨てきれないことのソワソワ感。なかなかに凶悪というか、感想として得たえぐみや辛さに対して、言い訳を許してくれない感じが素敵でした。いつの間にかきっちり当事者側に巻き込まれたような。
主人公であるところの兵隊さんが好きです。いや好きっていうか、頑張れって思いました。序盤は普通に共感(というか活躍を期待)して読んでいて、でもそれが中盤であんなことになって、確かに言われてみれば「恥ずかしい」「浅ましい」かもしれないしそこは反省もするけれど、でもそんなに? そこまでの目に遭うほどのことした? という、なんかどっちつかずの立場に追い込まれたみたいな、このばつの悪い感じがなんとも楽しい作品でした。