第四話 黒猫ホームズの帰還
家につく頃には完全に日が沈んでいて真っ暗だった。この時間はどんどん気温が下がって本当に寒い。
寒さにかじかむ手をおさえ、鍵を開けて真っ暗な家の中に飛び込んだ。
「ただいま~! ……って、誰も居ないんだけど」
……いつもならあのふてぶてしい猫がご飯の催促をしにお迎えするんだけど、今日は随分と静かで、改めてスズは居ないんだって実感させられた。
「さ、ご飯にしようね。今晩はご馳走にしよう!」
「ご馳走! いいね、テンション上がるよ!」
ちょっと落ち込んだ気持ちを誤魔化す様に叫んだ。実際お姉ちゃんの料理は絶品だ。きっと今夜は文字通りのご馳走が待っているのだろう。少しのワクワク感と一緒に電気をつけようと、廊下を走って抜けようとした所で――
――グニ、と柔らかい感触が足の裏から伝わると同時に、何かの甲高い悲鳴が家中に響き渡る。
「痛ったァーーーっ!? 何!?」
驚きのあまり後ろ向きにこけて頭を打ってしまった。涙目でこけた原因であろう所を睨みつけるが、真っ暗で何も見えない。
――チリン
鈴の音が家の中に響いた。この音は――
「スズ!?」
お姉ちゃんが慌てて電気をつけると、そこには敵意むき出しでこちらを睨みつける黒猫――スズが威嚇体勢を取っていた。
「な、なんで……まさか猫又か!?」
尻尾を見るが、二股に分かれている様子はない。ただ、その足元には――何やら大きな魚が一匹、食い散らかされていた。
「スズちゃん……! 良かった……!」
お姉ちゃんがスズに飛びついて泣き始めた。いやいや、その前にその足元の魚は何なんだ。どこから取ってきたんだ貴様は。
魚を取ろうと思って差し出した手をスズがバリバリ引っ掻いた。どうやらよっぽど踏まれたのを恨みに思っているらしい。老衰しているどころか寧ろ元気な事この上ないぐらいだった。
「まさかお前、その魚……盗ってきたのか!? どこから盗ってきたこのお魚咥えたどら猫ーーっ!」
今日何度目の怒声だろうか、いい加減喉が
私の怒声など意にも介さず、スズはお姉ちゃんに撫でられて気持ちよさそうにニャーンと鳴いた。へいへい、気楽でようござんすね。……こっちの気も知らないで。
――黒猫ホームズは、推理を外した。まさか最初に一笑に付した、お魚咥えたどら猫説が真実だったとは。こんな大失態をおかすとは、もはやホームズの看板は外さざるを得ないだろう。
「……これからはお前が黒猫ホームズだぞ。難事件の数々を私に代わって解決してくれ」
スズに向かってそう言いながら、餌を手に乗せて顔に近付けてやった。本来三毛猫ホームズは猫が探偵役なのだ。黒猫ホームズだって、猫が探偵役をすべきだろう――
そんな私の考えを理解したのかしてないのか、スズはにゃぐんという汚い声と一緒に餌に噛みついた――私の手ごと。
黒猫ホームズ! 習作様 @syu-saku-sama
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