お化けダイコンとの最終決戦!

 その時、部屋の左方の壁が回転し、そこから白い霧が放たれた。霧を浴びたダイコンは、すぐに凍りついてしまった。

「皆、こっちだよ。ダイコンの氷が溶けて動き出す前に早く」

 壁の向こうから現れたのは、桜であった。

「桜さん……裏切り者じゃなかったのか」

「ダブルスパイ、って奴ね。時雨刑事」

 三人には、桜についていく以外に選択肢はなかった。桜を先頭に、メイスン、時雨、千秋の順番で壁の向こう側の通路を歩いていく。通路は薄暗く、埃っぽかった。

「私、メイスンのこと恨んでなんかいないから。覚えてるかな……私が川で溺れた時、貴方は周りの付き人が止めるのも聞かずに助けてくれたよね」

「ああ~そんなこともありましたねぇ……結局それ以来、会うことはありませんでしたが」

 そのような話をしながら歩いていた、その時であった。

 突然、乾いた音が聞こえた。明らかに銃声だ。その音は通路の前方斜め上からである。見ると、上の方にも通路があり、そこに銃を構えた人物が立っている。


「桜、お前裏切りおったな」


 立っていたのは、あの博士であった。その傍らには、黒づくめの男二人がAK47小銃を構えて立っている。

「その様子ではダイコンのも知っておるな? 生かしては帰さん」

 博士と黒づくめたちは銃を構えた。咄嗟に四人は通路の左右に置いてあったドラム缶と鉄製の箱に身を隠した。

「マジかよ……」

 時雨は懐から拳銃を抜いた。桜もまた同様に拳銃を手にしている。ところが、メイスンは銃ではないものを手に持っていた。

「爆弾は無くなりましたが……これならあります!」

 メイスンはドラム缶の影から何かを投擲した。それは白い煙を吐き出し、あっという間にその場を覆ってしまった。

「今です!」

 メイスンの一言を合図に、四人はダッシュした。一直線に通路を駆け抜ける。やがて四人は扉にぶち当たった。

「おっす!」

 時雨は扉に勢いよくタックルをかました。すると、扉が口を開け、外の景色が見えた。これで外に出られる。

「待て! 逃がすか!」

 しわがれた声とともに、銃声が聞こえた。

「うっ……」

 メイスンが、銃弾の餌食となった。彼の秀麗な顔貌が苦悶に歪んでいる。抑えた胸からは、鮮血が滲んでいた。

「ワタシに構わず行ってください!」

「で、でも……」

「今更置いていけなんて……私には無理」

「いや、もたついているとボクらは全滅だ。行かなきゃ」

 逡巡しゅんじゅんする時雨と桜に対して、千秋は毅然と言い放った。結局、三人はメイスンを置いて車へと足早に戻っていった。

「狂った科学者め。引導を渡してあげます」

 メイスンは最後に残った一つの爆弾を建物の中に放り投げた。手投げ弾であるので、扉の爆破などには使えないものであった。爆音を聞き遂げたメイスンは、そのまま力尽きて地に臥した。




 東京都府中市・味の素スタジアム

 その観客席の最上段に、時雨と桜、千秋は立っていた。

「お化けダイコンはね、タグチ博士が食糧問題を解決するために品種改良で生み出したの。だけどおかしな性質を持つようになって、人を襲い出した」

 車で逃走中に、桜が言っていた。

「博士はこの件を逆に利用して、国家の転覆を図っているわ。けど、お化けダイコンには弱点がある」

 桜は尚も続ける。

「ダイコンはとある曲を聞くと、そちらに吸い寄せられる性質がある。集まった所を千秋くんの除草剤で始末するの」

「曲?」

 時雨はそこが気になって仕方がないといった風に言った。

「1978年に米国で発表された曲よ。変な歌だけど、不思議と中毒になるのよね」

 そうして現場に到着すると、桜はパソコンを操作し、スタジアムの音響設備から大音量でその曲を流し始めた。

 その曲は、メイスンが歌っていたあの歌に似ていた。歌詞こそ違うがメロディはそっくりだ。

 桜の言う通り、スタジアムにはダイコンが大挙して押し寄せてきた。その数は瞬く間に増えていき、ぎゅうぎゅう詰めになったダイコンがピラミッドを作り始めた。

「今だ!」

 時雨はリモコンのスイッチを押した。上空を飛ぶ十機のドローンが、例の除草剤を散布し始めた。効果は抜群。ダイコンたちはどんどん萎れていく。


 だが、その内の数本が、三人のいる方へ跳んできた。時雨は咄嗟に銃を抜く。

「駄目! 撃つと毒ガスを出すわ!」

「え、俺はナイフで仕留めたぞ……?」

「多分、毒ガスを出せるように進化したんだわ」

 時雨は狼狽うろたえた。ダイコンは刻一刻と迫ってくる。

「ワタシの助けが必要ですね?」

 声が聞こえた。まさかと思って、時雨は振り向いた。金髪ロングヘアー、華奢な体躯、見間違うはずもない。


 現れたのは、メイスンその人であった。

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