特殊捜査チーム、罠にかかる!

「痛てて……」

 痛む尻を撫でながら、時雨は起き上がった。時雨は着地時に弾みで尻餅をついてしまい、その痛みが今も残っているのだ。

 左右にドアらしきものはなく、前を見るとその向こう側には何があるのか見えない程に白い壁がひたすら続いている。

「やはり、罠を仕掛けてましたね……」

 メイスンは如何にも苦々しいと言った表情で、廊下の向こう側を睨みつけている。

「それでも後には引けません。行きましょう」

 そうだ。メイスンの言う通り、もう特殊捜査チームたちは後には引けない所まで踏み込んでいる。四人はひたすら奥に突き進んでいった。長い廊下を、ただただ歩いてゆくのみである。

 やがて、突き当たりに差し掛かった。そこには白い引き戸がある。メイスンは手をかけて引いてみたが、扉はびくともしない。

「随分と頑固者の扉ですねぇ……これは爆破せねば。皆サン、離れていてください」

 メイスンはリュックサックから例の爆弾を取り出し、扉に貼りつけた。

「発破!」

 メイスンも後方に下がって距離を取り、そう叫びながらリモコンのスイッチを押した。爆音が鳴り、破片を散らしながら、扉は爆破された。


 扉の向こうには、机も椅子もない講堂のような、だだっ広い空間が広がっていた。薄暗い中に黄色い照明がぽつぽつと点いている。

「よくここまで来たな、諸君」

 そのしわがれた声が響いたのと同じタイミングで、空間の一番奥、講堂の壇上のような所に、突如照明が点灯した。そこには頭頂部のはげ上がった白衣姿の男が立っている。

「貴方が騒ぎの元凶ですね? リチャード・タグチ博士」

「ああそうとも」

「え、知り合いなの?」

 時雨はつい横から口を挟んでしまった。

「ワタシの祖父グランパです」

「そうだ。そこのソイツはワシの不孝者の孫だよ。家を飛び出して私立探偵など始めおった大馬鹿者だ」

 博士と呼ばれた男は、メイスンを指差した。

「悪いが諸君らを生かして帰すつもりはない。桜、やれ」

 その時、銃を抜いた桜が、その銃口を三人に向けてきた。時雨はその時、彼女が内通者であったことを悟った。

「……メイスン、貴方の父は使用人だった私の母に手をつけた後、妊娠していると分かった途端に堕胎を要求してきた。それに母が応じていたら、今頃私はここにいなかったでしょうね」

 桜は憤怒の表情で、メイスンを睨みつけている。

「私と母はずっと苦労してきたわ。ボンボンの貴方には一生かかっても分からないような苦労をね!」

「桜、その辺にしておけ。三人をに連れていくのだ」

 

 三人は桜に促され、十畳程の部屋に入れられ扉を閉められた。例によって部屋は白い壁に覆われている。

「閉じ込められた……どうしよう」

 最初の尊大な態度は何処へやら、千秋は気弱げな声を発している。

「また爆弾でどうにか出来ないのか」

「もう使い果たしてしまいました」

 時雨の問いに対して、メイスンは力なく首を振った。

 三人が狼狽うろたえていると、突然、バタンという音が聞こえた。天井の中央辺りからだ。

 三人の視線が、そこに注がれる。天井は、下向きに開いていた。そこから、何か白いものが立て続けに落下してくる。


 落ちてきたのは、ダイコンであった。


 瑞々しい葉を生やしたダイコンたちは、一斉に牙を見せた。

「こうなりゃボクが……!」

 千秋はリュックサックからホース付きの四角いボトルを取り出すと、ホースをダイコンに向けて青い液体を噴射した。それを浴びたダイコンたちはたちまち萎れていく。

「どうだ。スーパーラウドアップの威力は」

 千秋が使ったのは、彼の発明品である強力な除草剤であった。ダイコンも所詮は植物であり、除草剤には敵わない。

 けれども、ダイコンは次々と天井から落ちてくる。ボトルの中身もだんだんと減り、とうとう空になってしまった。

「げっ……まずい!」

 三人はすぐさまダイコンに包囲されてしまった。絶体絶命。三人は身を寄せ合って部屋の隅に縮こまって震えていた。

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