第4話・新たな旅へ

 リリオネルの言う通り、2人の少年と青年は、ゼェゼェと息を切らせながら少々勇者を恨めしげに睨んでいる。この状況を見る限り、探されていたのは勇者のほうだった様だ。もしかすると、突然戦わなければならない状況におちいる可能性があるのに、従者に大荷物を背負わせて、勇者自身は剣を所持しているだけ…。随分なめられたモノだ――と、重鎮3人が心の中で怒りに燃えていた。


「ユウシャとジュウシャはどこに向かっているのだ?やはり魔王を倒しに行くのか?魔界への行きかたはわかるのか?」


 そんな事になっているとはつゆ知らず、リリオネルは純粋に、久しぶりに人間の姿を見られたことでテンションが上がっており、どんどん突っ込んだ質問をしていく。魔王の発言前には怒りでいっぱいだった3大重鎮も、これには狼狽うろたえ始めた。勇者と従者も、こんな小さな子どもが何故にそんな細かいところまで知っているのかと、目を丸くして驚いている。そこに、ルシアノが割って入った。


「えー…すみませんね、僕たちのあるじは勇者のお話が大好きでして毎夜絵本も読んでいるのです」


 魔界にそんな本は滅多に無い、これはルシアノの完全な嘘なのだが、勇者と従者はそれを信じ、ラビタルとハヴァルはホッと胸を撫で下ろし、リリオネルは自分の好奇心が暴走してしまった事に気づいた。しかし、まだ言葉は続いた――


「ユウシャは、なんで魔王をやっつけたいのだ?魔王がとっても強くて、手も足もでないカノーセーを考えないのか?」


 その意見に、勇者と従者は一瞬面食らって押し黙った。見目麗しい幼子が、自分たちが考えもしなかった事を突いてくるとは、思いもしなかったのだ。この人間界では、人間がまさしく[魔]のつく生き物を狩る傾向にある。その標的となる魔物は、所要で人間界に紛れ込んでいた魔力をほぼ持っていない者達だ。本当に強い魔物を知れば、どれほど自分たちが愚かな認識をしているか思い知るだろう。


「……それが…俺の使命だから」


 それしか、答えを絞り出せなかった。

 リリオネルは、勇者と従者の雰囲気がどんよりとしている中で、全く雰囲気を読まずに再び口を開いた。


「魔界へはどうやって行くのか??」


 それはそうだ、と、3重鎮も思った。今まで実際に、魔界までやって来た人間はいない。人間界への扉は、魔界だけにしかないのだ。重鎮たちが頭を悩ませていると、ふと思い当たるふしがあった。人間たちと同じ大地に暮らしている、悪魔族の存在だ。実は、悪魔と魔族には決定的な違いがある。何かに憑依して操り悪事を働くのが悪魔族、そうでない独自の形態と魔力を持つのが魔族なのだ。さっそくテレパシー会議が行われる、これからの魔族のためには何をするべきか。悪魔族と魔族の違いを分からせる為には、何を見せるべきか。全てを決めるまで、時間は掛からなかった。魔族の将軍ラビタルが、口を開く。


「知らないなら正直に言え、俺達が住んでいる場所からそう遠くない。悪魔たちの住んでいる場所は知っている」


 それを聞いた勇者と従者の曇っていた表情が、パッと明るくなった。彼等は、勇者と従者として選ばれてから、あまり時間が経っていない。分からないことだらけの中で、必死に情報を集めていたのだ。そこに、悪魔族の居場所を知っているという者達が現れて、居場所を教えてくれるという。もしかすると罠かも知れない、嘘かも知れないが、これまで大した功績も上げられずに少しずつ、何とか進んできた。彼等は、藁にもすがりたい状態だったのだ。


「頼む、俺たちを案内してくれ」


 勇者と従者が揃って頭を下げると、ラビタルやハヴァル、ルシアノまで満足そうな表情を浮かべた。ちょうど良い機会だ、悪魔族と魔族の違いを披露しようと。魔王は、その流れに笑みを浮かべて見ていた。


「リリオネル様、こういう事になりましたが、宜しいですか?」


「よいっ!しかしこの町をもう少しみたい!あしたゆくぞ!」


かしこまりました、勇者殿、宜しいですね?」


「勿論!是非ともお願いしたい、宜しく頼むっ!」


「では、明日の昼前に、この場所で」


 勇者と従者を見ながら、ルシアノが明日の予定を決めて一旦別れた。因みにリリオネルは、ラビタルの腕に腰掛けてブラブラと脚を振って、非常に楽しんでいる様子である。ここから、魔族一行と勇者一行が、共に悪魔族の王を退治する旅へと向かう事になったのだった。

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純白の幼児、リリオネル。 江戸端 禧丞 @lojiurabbit

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