第3話・人間界

 という経緯いきさつがあり、3大重鎮はさっさと準備を終わらせると、それぞれが城に部屋を持っている直近の部下達に仕事を任せ、4人は人間界へ続く扉をくぐってやってきた。現在、人間の匂いを鼻で確かめながら、魔王リリオネルは将軍ラビタルの腕に抱かれ、御側仕え怪力の低身長者ルシアノは、全員分の荷物をどデカいリュックに詰め込んで背負い、皮に描かれた人間界の地図を広げて、御目付け役ハヴァルは分厚い本を片手に、森を歩いて進んで行っている。


「ここから真っ直ぐ歩いて30分ほどで……えー、大きめの町に着くようですね」


 ルシアノが歩くにつれて変化する魔法の地図を確認すると、身体の向きを変え先導していく。こういった道具は、知能のある魔物なら必ずひとつは持っているものだ。それはそうとして、勇者を見たい一心で何も聞かぬままやって来た人間界に、リリオネルは内心パニックを起こしていた。勢いのままに行動を起こしたが、この世界のことは、魔界のことも人間界のことも何も知らないのだから。やっとの思いで絞り出した言葉は、未知の世界に踏み出すものだった。


「―その町にユウシャがいるのか?はまだ世界を知らぬ、このカッコーでダイジョーブか??」


「大丈夫でございます!立派な旅人の衣装を厳選致しましたので!」


 他の2人も同じ意見なのか、無言で頷いている。[立派な旅人の衣装]と呼ぶには宝石が散りばめられた美しい衣装だが…魔王に対してはそれぞれの優先順位が高すぎてエラく派手なモノを、着せられている。そして歩き続けて30分、町について早々、人間用の反物を物色していたリリオネル一行の元に、目当ての[勇者]がやって来た。魔王一行の容姿や着衣の煌びやかさに、話しかけられずには居られなかったらしい。茶色い髪に、紫色の瞳の雰囲気イケメンだ。話しかけてきた勇者のその目を見たラビタルが、テレパシーを使い4人で情報を共有する。


〝 この者、微弱ながら言霊を扱うようだ、まぁ、我等には全く弊害はないな 〟


「アンタ方、随分煌びやかな服に飾りまで付けてるけど、なんでこの町に??」


「我々は旅人だ、あちこちを移動しながら、今回はこの町に辿り着いたのでな。取り敢えず観光だ」


「貴方はこの町で何を?」


 ラビタルの雰囲気に圧されながら勇者が目を逸らした時、サラッと話題を変えたのはハヴァルだった。美しく波打つ金色の長髪に、知性が溢れ出る青い眼で、全てを見通している彼は頼もしい。ハヴァル達は、冷静に話の行く先を見守っている。


「俺は…王国付きの魔術師に、祭壇で選ばれた勇者だよ、人間代表みたいなモンかな?連れが2人いるんだけど……探すのを手伝ってくれないか?」


 ラビタル・ハヴァル・ルシアノの表情が強ばる、普段からこんな言葉の使われ方をすることは、まず無い。ましてや魔王の目の前で浴びた屈辱だ、何よりもプライドを傷つけられ、殺気立つ3人が動こうとした瞬間、リリオネルが指を指す。


「ユウシャが探してるの、アレ?」


 そこには、ヘロヘロになりながら勇者の元へ走って来る、黒髪に赤い眼の美しい少年が、大荷物を両手に辛うじて進んできていた。その少年を追いかけるように、もう1人大量の荷物を持って、足取りがフラフラとした状態でこちらへやってくる青年がいる。向かってくる2人の目を見ただけで、リリオネルはピンポイントで2人の心を読み、目の前にいる勇者と結びつきがある事を理解したのだ。

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