第2話・魔王、人間界に行く

 魔界3大重鎮が原因を探るなかで、リリオネルは[コレはやってしまったのでは]とスッカリ項垂れてしまっていた。しかしその反面、この世界の人間に興味が出てきたのである。3忠臣の驚きを他所よそに、この機会だから人間を見に行くワガママが通るのではないか、と考えた。たどたどしい足取りで御側仕えルシアノの元まで歩いていくと、小さな手でグイーッと衣装を引っ張った。


「生まれるまえからは知っていた!ニンゲンも知っている!ユウシャを見たいっ」


 言い方はただのワガママなのだが、3人は揃って顎がはずれんばかりに大口を開けて凍りついた。待てと、誰も教えていないことを何故こんなにも知っているのかと、この小さな魔王陛下は、一体何者なのかと。逸早いちはやく我に返ったハヴァルが、魔王の執務室にある豪奢ごうしゃな椅子に、そっと小さな身体を据えつけて大きなアーモンド型の真っ赤な眼に視線を合わせるように屈む。そして、重い口を開いた。


「………陛下、人間は非常に弱く脆いのです、勇者や従者はまだマシですが……残念ながら我等魔族に対して攻撃的なのです。だというのに、掴まれた腕を振り払うだけで死んでしまう事を受け入れられない生き物で―――」


「コウゲキテキ……攻撃タイショウ…人間に化ければダイジョーブだ、余はユウシャに会いたい!人間はころさない!ラビタルに抱っこしてもらえば余に触れることなど叶わないからアンシンだっ!」


 リリオネルがここまで流暢に話したことは、今までなかった。それは、彼自身が自分の年齢を自覚した上で、言葉を長く話さないようにしていたからだ。が、生まれ変わる前にいた世界でやっていた、ゲームだけでしか見たことのない[勇者とそのお供]が実在すると知ったからには、見ないという選択肢は有り得なくなっていった。ついつい熱が入ってしまう、その様子にされて、御側仕えのルシアノが提案をする。


「何が理由かは分かりませんが、すでに陛下は人間の存在を知ってらっしゃいますし、[勇者]の存在もご存知でらっしゃる。いささか早いとは存じますが、社会科見学としてはいかがでしょう」


「人数が多くないか?……ハヴァル、どう思う?…―お前、なぜ人間に化けてるんだ」


「何を言う!こんなにも可愛らしく我儘をおっしゃり続ける陛下を、お前は見たことがあるか?」


「ない」


 言い切った瞬間、ラビタルは尻尾を仕舞しまって鱗を消し人間の姿になった。それを見届けたルシアノも、耳の形を丸くして人間にしては珍しいだろう、銀色の目の色を茶色にすると人間に化けた。2歳児の魔王リリオネルも、目立つ長い白髪を茶色にして、6対の白翼を仕舞うと、人間の姿になった。話の方向が、人間界に4人で行くということへ転がっているのを見て、またルシアノが思考をめぐらす。


「では!旅人として紛れ込むのは如何いかがでしょうか?ここ最近、人間界の王都で勇者とされる者が現れたそうで、行くなら今かと存じます」


「仕事は一旦、直近の部下に回しても問題ないだろう」


 念願の人間界に行けるとあって、リリオネルは大喜びだ。その姿に、3人の重鎮が微笑ましそうに顔がゆるんでいる。

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