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 武者修行ということで、徹底的に自分を追い込んでみよう、と思い一人用のチャーター船を借り上陸。当初の計画通り、とその島の最強モンスターを拝みに行こう、と島の中を気ままに散策していた。そしたら道中、一人の少女がモンスターに襲われているところに遭遇する。詞御は一撃で切り伏せるが、そこに少年が遅れて到着し、詞御が少女を襲っていると勘違いをして、襲い掛かってきたのだ。


「そのときは、互いの得物のみで、下位・乙型で戦闘したんだが、〝一応〟互角でね。こちらは誤解を解きたかったんだが、相手が聞き入れてくれなくって。力をあげようとした矢先、少女の機転でそこまでに至ることは無く誤解も晴れて、無事相手は矛を収めてくれたんだが……まさか、この島に人が居るものと思っていなかっただけにあの時は驚いたよ。

 それで聴けた話なんだが、二人は兄妹だということ。兄妹で、自分達と他の生き残りの人たちの為に、この地で貴重な食料でもある肉、その狩猟を行っていたそうだ。ところが、怪物の群れに当たり、その連携によって、妹と分断されていたところだったらしく、そこに通り合わせたのが自分というわけ。それがちょうど二年半前になるのかな?」


 詞御は定着した記憶を頼りに当時を振り返る。


「まあ、何と言うか余所者はごめんこうむる、というか自分を信じられなかったんだろうな、敵視されたよ、兄には。フィヨルド島には過去の大戦で雲海を渡る船舶建造技術が失われていて、生き残った人達は島の外に動きたくても動けない状況だった。 

 で、この月読王国なら、移民を積極的に受け入れていると人伝に聴いていたし、その為の大型の船舶も出してくれるだろうと思ってね。なので、早々にその島を引き上げて、生存者が居る、とこの国に報告したんだ」

「それが巡り巡って、この場での対戦相手ですか、奇縁というのはあるものですね」

「もっとも、あっちが覚えているかは分からないけど。ただ、兄妹だから、連携を取られた場合はあっちの方が上なんだろうな、恐らく」

「そんなことはありません! 練習期間は短くてもこっちの連携も大丈夫です!」


 依夜が、むん、と胸を張る。


「……初日に、黒焦げにされかけましたけどね」


 セフィアがぼそっと、それでいて依夜に聞こえるように言い放つ。


「あれは、初日だったからです! 何時まで根に持っているのですか!?」

「黒焦げにされかけたんですよ? 言いたくもなります!」


 また、始まった、と詞御はげんなりして彼女たち依夜とセフィアと距離をとる。普段は仲いいのに、ちょっとしたことでこじれる。やはり女という物は分からない。そう思いながらも視線をルアーハに向けると、彼は詞御の傍に寄ってきて、依夜たちには聞こえない声で詞御に語りかける。


「まあ、あれも一種のコミニュケーションじゃて、本気でやりおうとるわけではないからなあ」


 はあ、と詞御は返すしかなかった。彼がそういうのなら放っておこう、と決めた。

 体感時間で数分経ったころ、不毛なやり取りが終わったのか、セフィアたちは詞御たちのところに戻ってくる。何となく彼女たちの表情が先ほどよりすっきりしているのは気のせいだろうか? と詞御は思った。


「さて、詞御。作戦はどうしますか?」

「相手の倶纏の階位次第になるのだけど、序列一位ということは、最低でも中位・甲型以上と見た方が良いだろうな」

「私たちと同じ、意識体かもしれない、と?」

「依夜も相手の養成機関のことは分からないんだろう?」

「はい、お父様は教えてくれませんので、当然ですが」

「となると、連携取れないように分断させて、各個撃破。最大戦闘力で迎え撃つのが一番良いだろう。もっとも依夜の場合は、相手の倶纏の大きさによって搭乗するか、またはその身で闘うかは選択次第だろが」


 小さくスピードのある倶纏だと振り回されることもあるからだ。


「では、互いの対戦相手はどうするのじゃ?」

「それは相手の出方次第ということで。開始後直前で念話で伝えるよ」


 ここ数日の特訓で、詞御たちは依夜たちとも相互に思念通話が出来るようになっていた。


「それじゃ、中央控え室に向かおうか。セフィアとルアーハは体内に戻ってくれ。相手も来ているだろうし。あと、武器は置いていこう依夜。手の内はなるべくさらさないほうがいい」

「了解です、詞御さん」


 倶纏を己が体内に戻し、詞御は部屋内に武器を立てかけた依夜と一緒に控え室を出て、中央控え室へと赴いた。詞御はこの場に愛刀は持ってきてはいない。持ってきているのは、今は左手首に嵌っている金属製の細いリングだけ。実戦で試すにこの場は得難い機会だと思い、を持ってきている。


〔相手は覚えてくれているかな?〕

〔さあ、どうでしょう詞御。意外と忘れているかもしれませんよ?〕


 セフィアが余裕しゃくしゃくで言うが、その自信は脆くも崩れ去ることとなる。

 何故なら――

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