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 この月読王国の軍事組織および警察組織に多くの人材を派遣する国立倶纏養成機関。東西二つ有るこの大きな組織。この国の将来を担う雛鳥たちとはいえ、序列上位ともなれば、将来、一軍に匹敵する可能性を持つ能力を誇る倶纏とその使い手が数多く存在する機関。そして、そんな倶纏使いたちの戦闘技術を『模擬戦闘』という形で披露するイベントが存在する。それが――

 

『さあ、二十年に一度の祭典がやって参りました、東西の養成機関のトップパートナー同士が覇を競う試合が。今回はどんな展開を見せてくれるのでしょうか!?』

 

 ――東西養成機関名物、〝闘いの儀レクシオン〟である!!

 

「結構な人数が入っているな。しかも建物もでかいし」


 控え室で、試合開始を待っている詞御は、部屋に設置されているモニターを眺めながらそう呟いた。


 〝闘いの儀〟が行われる場所は、地上から二百メートルの高さに設けられている建築物の屋上、ドーム型の透明な天井で覆われている階層にあるのだ。観客収容人数が十万人。その広さも半端無い。それに比例して、とんでもない広さの戦闘領域が準備されていた。一辺が二百メートルの正方形の闘技場。それが戦闘領域の広さだった。


 そんな建物が首都のど真ん中、この王国の総人口の二割を占める場所に建設されているのだ。


「まあ、他の主要な大会でも使われる施設ですので、この下の階層にも闘技場がありますから」


 依夜のフォローが入る。依夜には見慣れた物なのだろうが、詞御にとっては馴染みの無い場所だけに感慨と呆れ、両方の感情があった。


「さて、対戦相手は誰になるかな?」

「そろそろ発表になると思うのですが……」


『さて、ただいま、戦闘領域の最終チェックを行っております。試合開始までしばしのお時間を。実況は自分、王宮警護隊・隊長を務める、ひいらぎ純哉じゅんやが行います。解説はこの試合の為に特別に来て頂きました、自分の両隣に居る国王陛下と女王陛下です』


 分厚いガラスと強固な防御シールドで覆われた実況室にて、柊純哉と名乗った人物は拡声器を握り締め、集まった観客達、いや、この試合を通信で観ている人全てに声高らかに宣言していた。それを受けて、国王と女王は軽く挨拶をする。


『うむ、よろしく頼む』

『皆様、こんにちは』

『さて、それでは選手の紹介へと参りたいと思います。まずは国王様が理事長を務める西の養成機関の紹介から行きたいと思います。こちらは、高等部三年で年齢は十八歳、序列一位のセブラル・リインベル選手と中等部三年で年齢は十四歳、序列四位のフィアナ・リインベル選手です。名前からお察しの通りお二人は兄妹です。国王様、片方が序列四位と言うのは?』

『ふふふ、それはまだ言えんのだが、組んだ場合、この者たちに敵う者がいないのでな』

『それは楽しみですね。それでは、女王様が理事長を務める東の養成機関です。まずは、この国の皇女でもあり高等部一年で年齢は十六歳の序列一位の月読依夜選手。そして、もう一人が七日前、急遽変更になった同学年同年齢である序列二位である高天詞御選手。なんとこの者は、今まで誰一人として合格したことがない編入試験を初めて突破した人物です。一体、どのくらいの実力を秘めているのか見ものです!』

『ふふ、驚かれると思いますよ』

『おおっと、両陛下からなんとも意味深な発言が、これはますます試合が楽しみになってきました! さて、中央控え室では両養成機関の代表者たち同士が顔合わせをする頃。一体、どんな会話をするのでしょうか?』

『リインベル兄妹には、叶えたい願いがある。それがこの〝闘いの儀〟に掛かっておる。いい啖呵たんかをきるだろうて』

『あら、国王。私達のパートナー、特に高天さんはどうしても勝たねばならぬ理由があるのです。こちらも負けていない、と思いますよ』


 純哉を挟んで、国王と女王は、にこやかに、さりとて、譲れない雰囲気をかもしだす。間に居る純哉はその空気に当てられて背中に一筋の冷や汗をかいていた。


『こ、こちらも開始前から盛り上がっています。もうしばし、皆様お待ちください』

 

      ◇       ◇       ◇       ◇       

 

 宛がわれた控え室で純哉の選手紹介を聞いていたセフィアはとあることを思い出す。


〔あれ、この方々は。詞御、顕現して良いですか?〕

〔構わんが、どうかしたか?〕


 詞御の許可を受けて、成体で顕現するセフィア。間髪入れず、詞御の額に自身の額を重ねる。


「な、な、何をしているのですか!?」


 依夜が慌てて言い寄ってくる。だが、詞御はそれに気をかける余裕が無かった。セフィアに定着させられた記憶を思い返していたからだ。


「思い出しました、詞御?」

「ああ。って、依夜、なぜそんな怖い顔をしている?」

「べべ別に怖い顔などしておりません! お気になさらないでください! それで何を思い返したのです!?」


 顔を真っ赤にしながらでは説得力のかけらも無かったのだが、詞御は取り敢えず、思い出した記憶を依夜たちに語った。


「対戦相手のことだよ。あの二人とは会ったことがある」

「どこでですか?」

「フィヨルド島でだ」

「あの極寒の地で? え? ルアーハ?」


 依夜が許可を出したのだろう、ルアーハが人間体の大きさで現れる。


「依夜、覚えてないんかい。二年半前、見放されたその島に住まう人たちが居るのが判明し、移民を受け入れたことを。多分、その時の人たちじゃろうて、あの兄妹は」

「そういえば、そんな事があったような気が……」

「まったく、公務に携わる者ならちゃんと覚えておかんかい!」

「はぁい……」


 ルアーハにたしなめられ、依夜は反省の態度をとる。確かに、皇女としてこの国を背負っていくなら覚えておかなければいけない事だろう。もっとも、二年半前といえば、あの事件から僅か半年。覚えていなくてもしょうがないのか、と詞御は思った。


「でも、あそこは半世紀以上も昔に王家が滅んで以来、人が居ないとされていたんですよね? 確か、『シュラウド帝国』とかいわれていたはずです」

「あ、生存者たちの報告したの自分だよ」

「えぇ!? そ、そういえばあの二人に遭った事があると仰っていましたが、詞御さんは何故、当時滅んだはずの国がある島へ赴かれたのですか?」

「何故って、簡単に言えば武者修行の為。その島にはとても巨大で強靭で強固なモンスターが生息している、と当時の情報屋からネタを仕入れてね」


 あっけからんと詞御は口にし、かいつまんで依夜に説明する。

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