4-3

「ルアーハの特性は雷なんだな。依夜が使えたと言う事は、上位・丙型の最高位なのか」

「そ、そうなんですよ、詞御さん。早めに説明しなければと思っていたのですが、手間が省けてよかったです!」


 渡りに船とばかりに、詞御の言葉に乗って来る依夜。


 上位・丙型は中位・甲型の性質に二つばかりプラスされる。それは、本来の大きさとミドルサイズの大きさの二形態の他に、スモールサイズになれること。またこの階位の最高位は、本人が昂輝以外に体内にある倶纏が持つ特性の力を生身で振るえる性質を持つ。当然その力は絶大で、今朝起きた依夜の感情による暴走は、その力の一端に過ぎない。


「まあ、そういうことにしておきましょう。それでは、そろそろ登校時間なので準備なさい二人とも。それと、高天さんに言っておきたいことがあります」

「はい、何でしょうか?」

「予め混乱の無いように申しておきますが、昨日の闘いで貴方が、中位・甲型の使い手である事、また『堕纏フェフレン』に陥った倶纏を一刀両断の下に鎮圧した事実に、校内は大きな騒ぎになっています。セフィアさんの事もその今の姿ならバレてますので、むしろ常時顕現させていても大丈夫ですよ。絶対、注目も浴びるし、質問攻めにも遭うでしょうから、今から覚悟はしていたほうが良いです。

 ちなみに高天さんのクラスは高等部一年の一クラスになります、依夜と同じですね。我が機関では、午前中の学科においては通常の教育機関と同様に同年齢制になっています。ですが、午後に組み込まれている倶纏を使用した実技の授業では、年齢を問わず、序列一位から三十位までが一クラスと割り振られます。この実技の授業においては年齢がばらばらです。つまり学科・実技とも依夜と一緒ということです」


 仲良くしてくださいね、と言葉を付け加えられた。

 女王から最後に付け加えられた言葉はともかく、その前の話は詞御にとって頭の痛い話でもあった。今までは何でも一人で行動してきただけに、団体生活で変な注目を浴びているというのは困る話である。


「大丈夫ですよ、詞御さん。わたしが付いていますから」


 依夜は、胸をたたくと誇らしげに詞御に告げた。しかし、それは、逆に詞御を不安がらせた。


〔これで皇女と仲良しって、余計に変な注目浴びないか?〕

〔まあ、多少の〝妬まれ・やっかみ〟の類は覚悟しておいてください〕


 セフィアの慈悲も無い言葉に詞御はげんなりするだけ。無事に養成機関での生活をやっていけるかな、と早くも黄昏たくなった。


「それでは、養成機関に着いたら、高天さんは職員室に向かって担任のところに行って下さい。編入生の紹介ですから、依夜と一緒にクラスには入るわけには行きませんからね」


 余計な注目を浴びなくて済むのは、この場合は良しとすべきだろう、と詞御は現実逃避気味にそう考えるようにした。


「それでは、今朝だけは昨日も使った専用通路を高天さんは使ってください。正面から入ると、新聞部やらの質問とか写真部とかの方からの妨害があるでしょうから」


 妨害って、と詞御はこれから待ち受ける学生生活に一層の不安を感じた。


「それでは、お母様、行って参ります。詞御さんも行きましょう」


 ルアーハを自身の内に戻した依夜は立ち上がると詞御に声をかける。


「私も変な注目浴びるのは嫌なので、詞御の中に居ます。戦闘訓練以外では出さないでください」

「あ、ずるいぞセフィア。自分ひとりに押し付ける気か!?」


 詞御の返事を待たず、セフィアは詞御の中へと戻っていった。ぐぬぬ、と詞御が歯がゆく感じていると依夜は苦笑しながらも歩き始める。詞御もセフィアのことは取り敢えず棚上げして依夜の後についていく。

 その後、車に乗って養成機関へと向かった詞御たち。先に、詞御を専用の出入り口に降ろした後、依夜を降ろすべく、正門へと車は走っていった。


 専用通路を使い、施設内に入った詞御は、職員室へと足を向ける。そして、担任に挨拶しに行ったら、少し驚くことがあった。担任が、一昨日の編入試験で依夜の前に実技試験を担当した人だったからだ。


「おう、一昨日ぶりだな。やあ、まいった。まさかあれ程の実力を秘めていたなんてな、俺もまだまだ修行が足りねえな」


 がはは、と笑いながら詞御にそう語りかける男性――担任は中々豪快な性格の持ち主らしい。ある意味これが初対面となる詞御は、そう思った。


「理事長から色々聴いていると思うが、いまこの養成機関はお前の話題で持ちきりだぜ。教室に着いたら覚悟しておけよ?」


 にやりと男くさい笑みを浮かべて、ただならぬことを言う男性教諭に、無駄な行為とは思いつつも詞御は抵抗を試みる。


「先生は庇ってくれないんですか?」

「そりゃあ流石にできねえな。とはいえ、やりすぎそうになったら、ビシッと締めるから安心しな」


 それを聴いて、詞御は僅かばかりほっと安心した。だが、それは、紙の薄さにも等しい安心だった事をこの後の詞御は痛感させられることになる。


 教室に入ったとたん、歓声に包まれ、簡単な自己紹介が終わった後、早くも質問攻めにあったのだ。中身は当然、編入試験のこととか、昨日の闘いのこととか、詞御の階位や倶纏の事まで、授業の合間ごとに質問攻めに。詳細を語る訳にはいかず、回数を数えるのが馬鹿らしくなるくらい何度はぐらかした事か。結果、それにより放課後に至る頃には、詞御はぐったりとして一日を終える事になった。


 午後のカリキュラムでは倶纏を使った模擬戦も有ったのだが、セフィアを出したとたん、特に女性生徒が可愛いと騒ぎ始め課業にならず、結果、セフィアはもみくちゃにされて、今は詞御の中で、詞御同様にぐったりしている。

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