2-3
「そうです、頑張ってください詞御」
「はい、詞御さんには是非頑張っていただきたいです」
語彙に多少の差異はあるものの、同じ意味合いの事をセフィアと依夜が言ってきたからだ。
やはり、女という生き物は分からない。近くにいるのに遠くにいるように感じる。
女性同士という事で、この短い時間の中で、何か互いに通じ合う物でもあったというのだろうか? 詞御に思いつく事といえば、彼女たちのゼナに対する嫌悪感。だが、それで意気投合するものだろうか? 分からない。本当に分からなかった。
その、詞御の疑問はどうやら置いてけぼりのまま、話は一区切り付く。そして、一拍の間を置いて、依夜が決した覚悟の表情で、次の話題を口にする。
「これは非常にお訊き難いのですが、本来訊いてはいけない事なのでしょうが、詞御さんが抱える〝欠損〟は、もしかして、〝記憶〟に関係する事なのでしょうか? 朝のご様子から、そう察しているのですが……」
最初ではなく、二番目に持ってきてくれたのが彼女の気遣いだという事は、いくら鈍い詞御でも分かる。倶纏以上に、好きこのんで、誰かしこに訊いて良い内容ではないからだ。
〝欠損〟はこの世界の常識だ。
とはいえども、基本、自身の欠損を話すのは親兄弟や親しい者だけに限られるのが殆どといえる。何故なら、時と場合によって、差別の対象になることもあるのだから、欠損に関しては。だから世界に住む人の常識でもあり、同時にタブーでもあるのだ、〝欠損〟自体が。
欠損は、大きく別けて二つに分類される。
肉体的な欠損を持つ者:マテリアル
精神的な欠損を持つ者:スピリチュアル
という。
「えぇ、その通りです。正確には、〝短期記憶が出来ない〟事が自分の欠損になる。海馬、だったかな? その辺りの機能がどうも自分には欠けているらしい。深夜零時を境に記憶が抜け落ちてしまうんだ。それを拾って憶えてくれるのがセフィア、というわけだ。マテリアルとスピリチュアルの中間のようなのが自分の欠損になる」
「……なるほど。それで抜け落ちた記憶を元に戻すのが、今朝の、という訳ですね」
依夜の視線が、傍に居るセフィアに向く。
「はい。私たちは〝定着〟と呼んでいます。その行為で詞御に過去の記憶を戻し、思い出させます。もっとも、毎朝、必ずするわけではありません」
何故です? というのが目で問われる。
「憶えたくも無い、どうでもいいものは定着しない事にしている。寝る前に定着させるかどうかを決めているからな。同じ事を何回も定着させていると、どうやら長期記憶に移行するらしい。そうなって初めて〝思い出〟に出来て、自分だけでも記憶していられる。大体七日連続でしなければいけない」
「肉体的記憶と一緒ですね、つまるところ」
セフィアの付け加えなくてもいい言葉に、場の雰囲気が一時的にしろ柔らかくなる。
どうやら気付かぬ間に空気が硬くなっていたようだった。
「なら、わたしの事も定着させなくて済むように憶えてください」
にっこりと微笑まれるとなんともいえなくなる。だが、言い終えるや否や、その表情が少しばかり曇る。
「どうした?」
「いえ、もし、万が一、という事になったら――」
「――ならないさ。万に一つも起こさない。そう踏んだからこそ、理事長の依頼を受けたんだ」
依夜の言おうとしている事が分かったので、遮る形で詞御は言葉を紡ぐ。
勝てる自信があるのは本当だ。だけど、想像もしたくない。この世に〝絶対〟という言葉がないのは分かっているから。
詞御の考えが通じたのか分からない。けれど、依夜は自身が危惧した事に関してはそれ以上問う事はしなかった。
今日の闘いの戦闘領域の設定が、『人体と倶纏への物理攻撃・〝可〟』になっているだけに。万が一という可能性が捨てきれないだけに。
部屋が、一瞬とは云え、深い静寂に覆われた。
それを感じ取った依夜は、場の空気を変えるためか、唐突にとある提案をしてくる。
「なんか、貴方たちの事ばかり聞いてしまいましたね。これでは不公平ですので、わたしの事も少しお話しましょうか?」
「そうだな……、では、今日この後の試合に、無事勝利したら教えて頂く、ではどうだ?」
「〝勝利したら〟、ですか? それ、約束の条件になるのですか?」
くすくす、と手を口元に軽く当てて依夜は微笑む。
「良いですよ。お約束、確かにお受けしました。何を訊かれるのか楽しみにしておきます」
〔良い提案です。一つの〝お約束〟と云えますね。決定事項のようなものですから〕
〔微妙に引っかかる言い方だな(まあ、セフィアが好調なのは望ましいけれども……)〕
セフィアの物言いに少し引っ掛かる物を感じつつも、詞御はとあることに気付いた。
「そういえば、朝方に皇女様の方も話があると言っていましたが、あれは先程の約束と違う内容なのですか?」
確かに、そんな事を言っていたのを、詞御は定着した記憶から呼び起こす。
セフィアにそう言われた依夜は、目をきょとんとさせると、思い出したのか、ぽんっと胸の前で手を叩く。
「そうでした。今朝の出来事があまりにも大きな衝撃でしたので、つい、忘れてました」
依夜が少し渋面を作ったので、おや? と詞御は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます