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「対戦相手の情報をお伝えしたいと思いまして。貴方だけ、というか、貴方〝たち〟と言い直すべきですね、この場では。貴方たちだけが対戦相手の情報を知らないと言うのは、不公平だと思いまして」
成る程、ゼナの奴の話だったか。詞御自身も〝奴〟呼ばわりしていて何だが、依夜が渋面になった理由が分かってしまった。
「昨日の皇女様との対戦記録映像でも入手しましたか、彼は。それしきの事で詞御の力量を推し量ろうとは。浅慮すぎて呆れ返ります。ねえ?」
セフィアから全幅の信頼を得ているのは詞御にとっては嬉しい事。反面、
「敵を侮るのは良くない事だ。しかし、自分の情報を得ているとは、ね」
「それが出来てしまうのが、序列上位の特権の一つなのです。実力主義を謳っているだけあって、ある程度の機密情報にアクセスできたり閲覧できたりするのです。この辺りは、国防や警察の縦割り組織と同じですね。上位に居るほど扱える権力も持てる情報の質も違う。養成機関からその辺りの意識付けを行うようにしているのです」
悲しい事ですが、と依夜は言葉を挟み続ける。
「昨夜、お母様から聴きました。といっても、お母様も人伝に聴いたことなのですが、ゼナが昨日の編入試験の映像を特権を利用して借りた、と。なので、こちらも伝えなければ不公平に当たると思い、詞御さんの部屋に伺ったのが今朝、というわけです」
「心配は無用です、私と言う存在がきっちりサポートしますから。どうみても昨日の皇女様より遥かに格下。対策を取っているなら、どう挑むのか、手並みを見させてもらいたい処です」
ふふんと、ない胸を張って威張るセフィアに詞御は一瞬苦笑はする。しかし、直ぐに表情を引き締めた。そして、軽くコツンとセフィアの頭を叩く。
「お前の存在は確かに心強いし、信頼している。だが忘れては駄目だ。もしかしたら自分達が見誤る可能性だってあるし、何より相手の倶纏に奥の手があるかもしれない。戦いの天秤を電撃的に傾かせてしまうようなモノが」
詞御の話を聞いて、先ほどまで浮かれ気味だったセフィアと依夜の表情が真剣な物になる。
「未知との〝戦い〟は、己の直感も大切だ。しかし、どんな状況に置かれたとしても、敵が己に勝るかもしれない可能性は捨ててはいけない。常にその事を考慮していないと、いつかどこかで、きっと足元をすくわれ敗れる。だから、決して侮ってはいけない」
これは、浄化屋稼業を続けていく中で身をもって味わった事。こうして生きてこの場には居るが、重傷といった酷い怪我を負わされるときは大抵が己のミスから来ている。心の緩みから来る油断であったり、時には相手の力の見誤りであったりと様々だ。
だから、戒めた。自分自身に言い聞かせる意味も含めて。それが伝わったのか、
「……ごめんなさい、詞御。環境が変わって、私は少々浮かれていたようです。確かに養成機関に入ったわけですが、〝戦い〟の本質が変わるわけではない。私たちはいずれ浄化屋に復帰する身。〝常在戦場〟というのを忘れてはいけませんでした。反省します」
「分かってもらえれば良いよ。さあそろそろ行こうか」
詞御とセフィアのやり取りは、依夜にとっては驚きの連続でもあった。同時に強く認識させられる。自分は、まだ篭の中の鳥に過ぎないのだと。
いつかは外に飛び出したい。詞御たちが持つ強き意思を持ってみたい、身に付けたいと強く思った。彼女自身が持つ信念に近づくためには。
「……確かに、そうですね。色々と勉強になる事ばかりでした。それでも、わたしは楽しみにしています。〝貴方たち〟と一緒に闘える事を」
既に、依夜の考えはその先にある光景に行っている様だった。
(〝先〟を見る、か)
正直、少し羨ましかった。未来に思いを馳せられる事が出来る事に。
「最後にですが、突如決まった序列決定戦というのもあるのですが、生徒の技術向上のため、観客席を開放し、養成機関内限定の生配信を可能としてあります。いわゆる【見取り稽古】という物ですね。生で観戦できるのは序列上位の者。ですが、他の者も教室の映像で観戦することも出来ます。その事は事後承諾で申し訳ないのですが、ご了承願えれば、と……すみません」
「いや、謝ることないよ。大きな事らしいから、もしや、と思っていたからね」
「そう言ってもらえると助かります。さて、そろそろ、試合の時間が近づいてきましたね。まだ余裕はありますが、そろそろ移動をしましょう。玄関に車を待たせてますので」
「では、私は詞御の中に戻ります。皇女様、私の事は――」
「――勿論、黙っています。貴方たちが明かしてくれるその時まで」
「そうして貰えると助かる」
セフィアが自分の中に戻ったのを確認して、自分は椅子から立ち上がる。
そして、立て掛けていた愛用の刀を手に取った。
「準備は整いましたね? では参りましょう」
依夜の後に続いて部屋を出る。数分歩いて玄関までたどり着くと、運転手がすかさず後部座席をあけてくれた。依夜が先に乗り、詞御はそれに続いて乗り込んだ。
昨日と同様、専用の出入り口に車が止まり(後から聴いたのだが、女王専用で特例措置だったらしい)、乗ったときとは逆の順番で降りる。その際、先に降りた詞御は次に降りてくる依夜に向かって手を差し出した。依夜は最初、きょとんとしていたが、意味が分かると僅かに頬を赤らめて詞御の手を握り返した。
〔優しいですね、詞御は〕
〔とげのある言い方をするな、何が気に食わないんだ。当然だろう、皇女様なんだから〕
〔そうですか、そうですね。私には優しくしてくれませんものね〕
〔そ、そんなことはないぞ。けっして〕
〔じゃあ、終わったら、めいっぱい頭を撫でて下さいね〕
セフィアは意外と甘えん坊なところがある。それは嫌というほど知ってはいたが、まさかここで出されるとは思わなかった。
「詞御さん?」
「ああ、何でもない依夜。さ、校舎に入ろう」
車から降りた詞御は同じく降りた依夜から専用通路を歩きながら、簡単なレクチャーを受けていた。とはいっても難しい話ではなく、観客席が何席とか、総学年数が何人か、倶纏の階位は、といった具合である。依夜の話を統合するとこうだ。
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