1-5
〔圧力の正体はこれ、か〕
〔しかも、〝無音〟召喚のおまけ付き、ときています。もっとも、それだけで終わりとは、到底思えません〕
倶纏を現実世界に実体化し、操る事でそのもの力を振るう。
これは、下位・甲型の倶纏だ。と詞御は思い込みたかった。けれど、先程のセフィアの言葉は、その甘い考えを容赦なく打ち消す。
通常、倶纏はその固有名称を声に出して
〔流石に、最後の試験官と云った所か。四人目までとは格が違う〕
〔そうですね、中位・丙型の個体を見るのは久方ぶりです。しかも竜人ときています。合格できそうですか?〕
〔するさ! でないと自分の信念を貫く事は出来ない! しかし、
〔――無理ですね〕
〔即答するな、と言いたい所だが、確かに難しいところだ、合格する為には。それと、もう一つだけ懸念事項があるにはあるのだが、対戦相手の倶纏が――〕
〔――〝中位・甲型〟の個体的特徴は見受けられません、詞御。あの〝竜人〟からは、今の所意識を感じ取る事は出来ません〕
詞御の言葉を繋ぐ形でセフィアが疑問に答えてくれる。
それならば何とか、勝機を見出せる。そう思った時だった。
対戦相手が竜人の背に生えている一対の大きな翼の間に飛び移るや否や、対戦相手の身体が竜人の倶纏に溶け込むように消える。これは、中位・丙型の最高到達点である〝搭乗〟である。
それを見た詞御は心の中で軽く舌を打つ。遠隔操作の類なら隙を見出して本人を攻撃しようと思っていたからだ。
しかし、今この状態ではそれも出来ない。あの巨大な竜人を直接相手にするしかない。
「■■■■■□□□□□ーーーーーッ!!」
竜人が放つ咆哮が、会場を埋め尽くさんと言わんばかりに、いっぱいに轟く。それに伴い、深紅の昂輝が放出される。そして、これまでの戦闘では発生した事の無い空気の振動が詞御に伝わってきた。
対戦相手が操る竜人の攻撃は、生身の時と変わらない、いやそれ以上の速度をもって攻撃を繰り出してきた。詞御は、回避行動に徹するものの、まさに紙一重。僅かでも掠れば、それが即致命的なダメージとなり、昏倒するのは必至といえた。
〔このままではジリ貧ですよ、詞御〕
〔分かっている、よぉぉぉっと!?〕
セフィアに返答し終わる前に、詞御は眼前の状況に最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。
何故なら、対戦相手が操る倶纏が詞御に向けて振り下ろす右腕を、紙一重で回避しようとした矢先、その竜人の右腕が変態したのだ。対戦相手が先程まで使っていた武器と同じ形態――長尺の柄を持つ戦斧に!! 大きく違うところは、そのリーチの長さと、刃の巨大さだ。
(しまった! 中位・丙型には、この特性があったんだ!!)
拳を避ける為にとった紙一重の回避行動ゆえに、このままでは避けきれない。
「ちぃっ!!」
自身の失態に舌打ちしながら、詞御は右腕を瞬時に動かす。
直後、大量の土煙が舞い上がり、施設の天井の位置近くまで立ち昇った。物凄い轟音と振動が武闘台を揺るがす光景は、攻撃の凄さを物語っている。まともに喰らっていれば、詞御は落第していた。そう、〝まともに喰らっていた〟ならば。
〔っく、煩わしいな、この土埃は。ところで、刃こぼれしてないだろうな〕
詞御は周囲を漂う土ぼこりから跳び出て、右手に携えている愛刀に視線を移す。
〔大丈夫です。詞御が浸透率を上昇してくれたお陰で刀身は無事です。それにしても、まさかあんな防御をしてくるとは思ってもいませんでした。翼まで硬いんですね、あの倶纏は〕
竜人の攻撃が当たる瞬間、詞御は昂輝の出力を上げ、一瞬だけ刀に籠める浸透率を上昇させた。その刀で、詞御に振り下ろされる巨大な斧に刀をあてて、その軌道を僅かに変える事によって直撃を回避。そして、そのまま一足飛びで相手の間合いに入り、返す刀でカウンター気味に切り上げようとした。高密度の昂輝が深く浸透しているその刃でもって。
しかし、今度は詞御の攻撃が当たる瞬間、対戦相手の倶纏は背中に畳んでいた一対の大きな翼を前面に広げ、身体の前で交錯。回避不可能な詞御の斬撃を防御するという事をやってのけたのだ。
詞御の眼前には対戦相手が操る倶纏が、一対の翼を大きく広げたままの姿があった。傷はどこをみても一つも見当たらない。
〔私にもできませんかね、あの防御方法?〕
セフィアが呆れたと
お互い決定打を繰り出しながら、互いが絶妙な捌きで防御。一見互角にみえている攻防も客観的な観察眼で冷静に見ればそうではない。
〔何とかやり過ごせましたが、次は通じませんよ。押されているのは詞御の方です〕
〔ズバっと言うな、お前は〕
〔事実でしょう? 先程の攻撃は右腕だけの変態でしたが、多分、他の部位も変えられる筈ですよ、対戦相手のあの様子だと〕
〔そうだろうな……。だとすると長期戦は――〕
〔――不利ですね、間違いなく。時間を掛ければ掛けるほど、劣勢になるのは詞御の方です。ここはもう、一気に勝負に出るべきだと。
最後に一言をつけてセフィアは黙ってしまった。
後の判断は任せます、というセフィアなりの無言の意思表示であった。
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