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〔まあ、何にしてもです。あと一人倒せば、無事『編入試験』には合格できるのですから気合入れてください詞御。腑抜けた気持ちで闘って、万が一があってはいけませんから〕
〔ああ、分かっているさ。ここまで来て不合格じゃ、話にならない〕
詞御は、今この国――
編入試験の内容はまずは午前の筆記。正午に筆記の合否が発表され、合格した者が午後の実技試験に挑める。実技試験はいたってシンプル。
機関が擁する実技教官五人抜きを達成すること、それが条件。勝敗はこの国で武道大会なるものが時折開催されているのだが、それに準拠――相手を気絶させるか、〝戦闘領域〟の壁にぶつけること(いわゆる場外を意味する)――、それがこの機関に編入する為の条件。
詞御は無事に午前の筆記に合格し、午後の実技試験に挑んでいた。だが、午後の試験は、内容のシンプルさとは裏腹に、永きに亘る養成機関の歴史の中で、編入試験の合格者は未だ無しと言われている。それほどまでに、超難関な試験なのだ。理由は単純明快。
正規の試験で合格し入学した者は、最初から厳格な教育プログラムで育成されている。しかし、途中から入ってくる者に、一から教える暇も無ければ人員も割けない。故に、編入者には途中からでもついてこれる文武を求められるのだ。故に、その為の
だが、それに詞御は挑み、四人抜きという、合格まで後一歩のところまで来ていた。
〔勝ち抜くたびに、相手の力量は上がっています。気付いてますか? 先ほど詞御が倒した相手と〝
〔確かに、な。このままで臨みたいところだが、そうもいかないかな?〕
〔そうですね。
〔数人の試験監督官が見ているとはいえ、出来ればお前を現実世界に晒すのは避けたいところなんだがな〕
〔詞御の気遣いはありがたく思いますし、嬉しいです。ですが、この機関に入ろうとする以上は遅かれ早かれ〝私〟という存在はバレると思います。いえ、確実にバレます。私と同等とまでいかなくても先ほどの倶纏以上がここに居ない訳がないですから。そういう事で――〕
〔――分かったよセフィア。でも、可能な限りは現状そのままでいくからな、そのつもりでいてくれ〕
〔了解しました。詞御も頑固ですね。でも、それがいいところでもあるのですが〕
くすくす、と微笑む声が詞御の脳裏に響く。
詞御がこの機関を選んだのは、編入試験が実力のみという点であった。
〔次はもう少し手応えがある相手だといいですね〕
〔よせ、セフィア。先ほどまでの相手くらいが望ましい処だ〕
闘技場の中央で、周りからは分からないのんびりとした会話をしている詞御〝たち〟とは裏腹に、編入試験を監督している試験官たちは大なり小なり慌てていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「信じられん! 下位・乙型で下位・甲型級最上位の倶纏を持つ実技教員を倒すとは!!」
「しかし、紛れもない現実です。この少年に対しては常識を捨てた方がよろしいかと」
「十六歳でこの実力は稀有だな」
「よほど倶纏の力が異常なんでしょうね。顕現出来ないのかしないのかはわかりませんが、あれほどの〝
詞御が振るっている力は、試験官たちからみれば異常に見えた。
「我が『
「それはまだ分からんさ、最後は――」
男性試験官の
「はい。り、理事長!? い、一体、どうされましたか? え、それは本当ですか?」
思いもかけない相手の通信を受け取った光男は慌てる。そして、伝えられた内容に驚かされた。それは、五人目の試験相手を変更する、という内容で、その人物の名を聞きさらに驚愕させられる。
「どうされました?」
訝しげに隣りに居る女性試験官の
「間違いなく……、理事長は絶対に合格者を出したくないようだ……!」
半ば呆然とした言葉で、通信を受け取った光男は、訊ねてきた霞にそう返すのがやっとだった。勝てるわけがない。それが信也の率直な感想。理事長が出してきた名前の人物と戦闘能力の高さを思いだして。
◇ ◇ ◇ ◇
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