目の色

雨世界

1 君はなにを見ているの?

 目の色


 消えちゃったね。寂しいな。


 本編


 君はなにを見ているの?


 陽毬には生まれたときから、目に少しだけ、みんなとは違う変わった特徴があった。それはひまりの『目の色』だった。


 陽毬の目はみんなと同じ黒や茶色ではなくて、とても澄んだ宇宙のような青色をしていた。それは外国の人たちの青色の目とは、また少し違った印象を受ける青色だった。

 海のような青ではなく、空のような青でもなく、陽毬の目は、確かに宇宙のような青色をしていた。透明な青。

 その青色の中に星の光のように、陽毬の意思を宿した強い光が輝いていた。陽毬の目の色はその陽毬の心の強さを物語っているような、強い光を、まったく邪魔することなく陽毬の目を見る人にまっすぐに伝えていた。


 それが陽毬の一番の魅力だった。陽毬には人を惹きつける力のようなものがあった。その力はきっと、その陽毬の目の色から、陽毬の強い目の輝きから発生している現象だと思われた。(少なくとも陽毬自身はそう思っていた)


 陽毬は子供のころ、その眼の色について、周囲にいる子供達からよくいじめられていた。(そのこと自体、とても辛い思い出だけど、今思い返してみると、私は確かに異物だったと思う。近くに自分たちとは違う目の色をしている子供がいれば、いじめるというわけではないけれど、からかってしまったり、変だな、と思ったりするのが当たり前の子供の反応だと思った。子供は正直な分、残酷なのだ。まあ、大人はもっと残酷だけど……)


 だから、子供のころの陽毬はよく泣いていた。

 小学校の教室の中で、帰り道の途中で道端に座り込んで、家の中でお母さんの膝の上で、自分の布団の中で一人で、……そんな風にしていろんなところで泣いていた。


 そんな陽毬のことをよくかばってくれる男の子がいた。


 とてもかっこいい男の子。(今考えると、もしかしたら、その男の子はすごくかっこいいというわけではないのかもしれないけれど、当時の陽毬にとって、その男の子は間違いなくヒーローだった。陽毬が困っているときに、助けに来てくれる、陽毬に手を差し伸べてくれる、陽毬の憧れのヒーローだった)


 その男の子を見るとき、陽毬の目の色はいつも以上にキラキラと輝いていた。(だから周囲にいる女の子達からは陽毬の思いが丸わかりだった。すごく恥ずかしい思い出だった)


 そんな男の子に、陽毬が「好きです。私と付き合ってください」と告白をしたのは陽毬が中学二年生のころだった。


 男の子に告白する前日の夜から、陽毬の心臓はずっとどきどきしっぱなしだった。


 でも、そんな陽毬の人生で初めての、初恋の人に自分の思いを正直に告げる恋の告白は、……成功しなかった。


「ごめん。僕、ほかに好きな子がいるんだ」それが男の子の陽毬に対する返事だった。


 自分の憧れたヒーローに振られて、陽毬は久しぶりに(こそこそと学校の人のいないところに隠れて)一人で泣いた。


 泣きながら陽毬は、……まるで泣いてばかりいた小学校時代にタイムスリップしたみたいだ。と、そんなことを思った。(それは涙の止まらない、陽毬の自分に対する、……ほんのささやかな慰めだった)

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