第7話 曖昧な想い

 瑛美の肢体を頭からつま先まで撫でるように見る。

 もしかしたら今日これっきりで瑛美の姿を見る機会がなくなってしまうかもしれないのだから。彼女はそれほど、自分のことを事務的に話す。感情がこもってない。

 もう俺に会う気はないのかもしれない。

 そんなに興味を持たれていないとは思っていなかったから残念だけど、だったらせめてこの美しい姿を目に焼き付けておこう。


「何…?」

「え?」

「じろじろ見てるなぁ、と思って」

「……そんなことないよ」

「そんなに私、変わったかな?」

「変わっていない…いや、昔よりもっと綺麗になったと思う」

「ああ、接客業しているからかな」


 素っ気ない返事、でも少しだけ口元に笑みがこぼれていたのを満流は見逃さなかった。

 やっぱり女性は容姿を褒められると嬉しいものなのだろう。歯が浮くようなことを言ってしまったとも思ったが、それが彼女を微笑ませたのならそれで良い。


「あのさ」

「…何?」

 満流の不意打ちのような話しかけ方に、瑛美は少し戸惑った様子だった。

「お金貯めているんでしょ?」

「うん」

「だったらルームシェアしない?」

「え??誰と??」

「俺と」


 瑛美は満流を真っ直ぐに見る。

 その瞳は怒っているでもなく戸惑っているでもなく、意外なことに真剣な眼差しだった。


「どうしてそんなこと言ってくれるの?」

「どうして、って…それは」

「私のことを綺麗だと褒めてくれたり、さっきから一体それらの言葉にどういう意味があるの?」


 言葉がすぐには出てこなかった。

 でも分かっている、好きだとかそういう具体的な感情ではなくて、寂しさを埋めるのに手頃な美人の瑛美が傍にいてくれたらいいな、って思って言っていること。

 それを彼女に話したら、怒られるだろうか?

 もう二度と会ってくれないだろうか?


 でも「好き」というほど、具体的な感情ではないことも確かだ。


 


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えいみとみちる 鳥籠ララ @flyingangel78

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