第47話 勇者カミヤの欲望

「あんなにうるさくて、鬱陶うっとうしい人なのにすっかり忘れてました。居なくても意外と気にならないもんですね」


 私が、そう言うと、マスターは、少し呆れた顔をして応える。


「先生。この前、カミヤさんは友達だって、言ってませんでした?」


「言ったよ。友達だもん、カミヤさん」


「だったら、そんな言い方は〜」


「良いの。友達だから」


「はあ」


 ますます呆れた顔に、マスターはなった。それには、構わず話を続ける。


「いつから居なかった?」


「そうですね~。え~と」


 と、マスターが考え始めると、横からゴトー君が、


「あれじゃないですかね。ほら、マスターと先生が、イブリオンの話してて、カミヤさんが、温泉街に行くとかどうとか」


「ああ! そう言えば」


 マスターと、私の声がハモる。


 そして、帰って来ないのか?


「あれから、どのくらい経ったっけ?」


「半年は経ってますね」


 私の疑問に、マスターは、そう応える。


「え〜とあの時、カミヤさんは……」


「確か、財閥がどうとか……」


「そうでしたね。リューギャー王国のお偉いさんが連れてってくれるとも言ってましたね」


 私が思い出しつつ、言いかけると、食い気味に、マスターと、ゴトー君が話を返してきた。そして、バッカスオサダさんも、


「へ〜。だけど、あのカミヤさんだろ? ただの温泉かね~?」


 と、ニヤニヤ笑いつつ、それに対して、ゴトー君が、


「決まってんじゃないですか。あの人の事だから、どうせエロい店ですよ」


「だよな~」


 と、オサダさんも同意して、ゴトー君が


「今頃、楽しくやってるじゃないんすか。ハハハ!」


「そうですかね。いくらあんな人でも流石に半年は〜」


 と、マスター。


「マスター。恩人をいくらあんな人でもはひどいよ」


 と、オサダさんがツッコミ。


「えっ! みなさんもひどい事、言ってたじゃないですか〜」


 マスターは、慌てて反論するが、


「いいの、俺達は、カミヤさんと友達だから」


 と、オサダさん。


「え〜! ひどいですよ~。仲間に入れてくださいよ~」


「ダメ。ハハハ!」


 オサダさんの大笑いが、店内に響く。つられて、私も、ゴトー君も、マスターまでも笑う。うん、今日も平和だ。





 一方その頃、その勇者カミヤはと言うと、


「お客さん、いい加減にしてくださいよ」


「良いじゃないかよ〜。ケチだな~。おねえちゃんと飲ませてくれよ〜」


「お金は、あるんですか?」


「えっ! ほら、一緒に来た財閥の……」


「リューギャー王国の方々でしたら、最初の一ヶ月は、ご一緒でしたが、その後は、お一人ですよ」


「そうだっけ? まあ、いいや。で、飲ましてよ~」


「はあ〜。まあ、良いですが、ちゃんと皿洗いしてからにしてくださいよ」


「はいよ!」


 勇者カミヤが、元気良く厨房に消えると、奥から別の店員があらわれ、対応していた店員に話かける。


「しかし、良いんですか? 皿洗い程度でタダ酒飲ませてあげて」


「ん? ああ、良いんだよ。用心棒と思えば安いもんだよ。変な客も、そちら系のお兄さんも、魔族もこの店に近寄らなくなったしな」


「そうでしたね」


「それに、勇者の名は、伊達ではないよ。勇者見に来る客もいて、うちは大繁盛さ。あんな勇者でもね」


「あんな勇者でもですか~」





 その時だった、奥から女性達の悲鳴が響いてきた。


「キャーーー!」


「あれ? 間違えちゃった。ねえちゃん達、ごめんね」



 店員は、顔を見合わせると、奥へと急いだ。


「あのクソ勇者!」

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勇者カミヤの暴言 刃口呑龍(はぐちどんりゅう) @guti3

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