エンドロールに僕はいない

にこ

エンドロールに僕はいない

 君の物語に続きはない。僕が過去に戻れないように。


 僕は君に対して何もしてあげられなかった。これからも僕はきっと何も出来ない。君は色んなことを僕に教えてくれたのに。僕に出来ることといえば美しく飾られていく過去を眺めることだけだ。


 記憶の中の君はいつも後ろ姿。黒く長い髪、小さくて白い耳、澄んでいるのによく響く声、今はまだ君を感じるのに時間はかからない。しかし時が経つにつれてその時間が伸びている。それはとても悲しいことだ。君がいなくなった時、もうこれから悲しむことはないと思っていたのに。


 世界が君を中心に回っているんじゃないかと錯覚するほどみんなが君を見ていた。君と出会ったあの夏以来、僕もその例外ではなかった。君と同じ空間に居るだけで僕は上手く息が出来なかった。だけど今は君が居ないせいで上手く息が出来ない。


 僕は君の彼氏だった男を3人知っている。どれも僕なんかとは比べられないほどかっこよかったし、良い奴だった。でも彼らは君という物語の脇役でしかなかった。最後まで主演女優の君と並ぶ俳優は現れなかった。


「今年の夏は何も無かったな」って君が僕に言ったのを今でも覚えている。まだ夏の暑さの残る夕暮れに君は僕を見て言った。僕は悲しかった。どうしようもない虚しさに襲われた。君にとって僕はエキストラ。夕日に照らされた君の顔はとても綺麗だった。



 君の後を追うには君との距離は遠すぎた。もっと君の近くにいたら僕は、、、


 


僕の物語のヒロインは君じゃなかった

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