第11話 傍観者に告ぐ

取って付けたような賞賛の言葉も、後ろめたさすら感じない華麗な手のひら返しもこの男を納得させるには事足りなかったようだ。

シドが放った先程のコメントは画面越しでも分かるほど怒りに満ちている。


シド「お前だよお前、今画面を見て鼻くそでもほじりながら呑気にコメントしてるお前にいってるんだ!

良いご身分だよなぁ、カモメの事を確かな証拠も無く弁解の余地も許さずネットやテレビに流されるままにそれはまぁ大層ボロクソに叩き潰そうとしておいて何の責任も取らず、ましてやさも私はずっと味方でしたかのように振舞い綺麗ごと抜かしやがってそれで誰からもお咎め無しなんだからよぉ。

自分と何の接点も無い、ただ何となく嫌いな奴にクソを投げつけコソコソと低評価を押すだけの簡単なお仕事ですね、え?今ここに問う、お前らは一体何様なんだ?

悪い事をしたらごめんなさいだろ?ガキでも分る事だ、一人の人間の人生を潰しかけたんだぞ、勘違いしてただけだから許してねなんて甘えたこと言うな冗談じゃねぇ!

己の中の勧善懲悪を満たす為か?日頃溜まったやり場のないストレスのはけ口にしたかったのか?大方そんな下らない事で感情に任せて相手を傷付けてまるで理性の無い獣と同類だ。

いやそれ以下か。

ただでさえデマや誤報が問題になる世の中だ、ちょっとでも考えればこの動画もそうかもしれない、事情があるのかもしれないって踏みとどまることも出来ただろうに…

どうせ今までも気の向くまま真偽も気にせず適当に拡散したり、みんなやってるからって大義名分を盾に攻撃していざ悪くないと知ったらこの通り。

何回手のひら返せば済むんだ、てめぇらの手首は千切れる寸前だぜ!」


彼の心からの本音であろう、演説が空間を支配する。

その言葉は重く、そして現代社会で当たり前になっている風潮に刺さるような異論を突き立てる。

今この瞬間彼を見ている全ての人に訴えかけているのだろうか、もしかするとそれは私自身だって例外では無いのかもしれない。

何も言い返す言葉が浮かばない者、必死で反論になっていない反論を唱える者。

彼の心情を理解できないといいたげな人物がこの場にもいた。


ハゼル

「何もそこまで怒らなくてもいいだろ、死ぬわけじゃ無いんだからさ」


シド

「死ぬぞ」

「殴ったり蹴ったりした時と違って目にこそ見えないが、傷は付くんだよ…言葉は使い方次第でどんな鬱憤も晴らす万能薬にも致命傷に至る劇薬にもなりえるんだ、ナイフより鋭利な武器にだってなる。

この際だからはっきり言ってやる、てめぇらのした事は殺人未遂だ!」


シド、私の事を思って言ってくれてありがとう、でももういいんだ。

言われっぱなしで納得する人なんていない、だけどその人たちに構っていても時間の無駄だ。

そんな中自分の非を認めたくないのか、ハゼルは急に開き直って余裕を見せ始める。


ハゼル

「いや、まだだ!俺には20万人の登録者がいるんだぞ、どうせ投票の結果は変わらん」


シド「そうかもな、所でハゼル、ちょっと話があるから場所を移そうぜ?」


結果は変わらないかもしれない、でも…シド、ありがとう。

ほんの少しだけだけど、シドがいたら他の誰かに嫌われても良いかなって思えたよ。

こんな不条理があり触れた世界で、たった一つでも頑張れる理由を見つけられたら見違えるほど景色は鮮やかになるんだ。

私達を残して二人が場所を移動する。


ハゼル「話ってなんだ?面倒くさいから早めに済ませろよ」


シド「今日はスペシャルゲストをお招きしてるんだ、この女性に見覚えはないか?」


女性「ハゼル君酷いよ!あれだけ好きだって言ってくれたじゃん!?」


ハゼル「は…何のつもりだ…俺はこっ、こんな女なんか知らねぇ」


シド「この女性、カノン氏は3か月程前からオフ会で知り合ったハゼル氏の熱烈なアプローチにより交際、しかしその後ホテルに行ってやる事やったら即解散という流れが続き不満に思った彼女が相談を持ち掛けた際、別れるなら親にバラすぞなどと脅迫の文章を送られる、その時のスクショもばっちりだIDもお前の物と一致している」


ハゼル「そんなのいくらでも加工できるだろ!」


シド「証拠はこれだけじゃねぇ、こちらに移っているのはホテルのベットでいびきをかくハゼル氏の写真、アルルカン上に上がっている服装や髪型から見て同一人物で間違いないだろう

これは立派な犯罪だ、なぜなら何を隠そうカノン氏は未成年、それを知ってお前は近づいたんだからなぁ!」


完膚なきまでにあぶり出した証拠に、言い訳を考える時間すら手放し全てをあきらめたかのようにひざまずくハゼル。

さっきまで見せていた余裕の態度から一転して、まるで別人だ。


ハゼル「俺が悪かった!すべて認める、だから公表はしないでくれよ」


シド「良いだろう、まずはLINEに移行して話を進めようじゃないか?これがURLだ」ハゼルは大人しく従う、しかし事態は急変する。


ハゼル「なんだこれは、ゲームエリアが!?」


空は歪み、大地は揺れ、建物は崩壊していく…繰り返されるエラーが発生しましたのアナウンス。


シド「お前がクリックしたのは俺のコンパスで書いたチートのURLだ!意図せず接続してしまったのさ

その名も《賛否両論=デストロコンテンツ》!コンパスのインクを媒体としインクに触れるもしくは描いた円の範囲内に侵入したゲームのメイン対戦者とのゲームそのものを破壊、無効化する。

デスゲームそのものが崩壊したのでゲームに関する違反報告も無効さ」


ハゼル「そんなの、マジのチートじゃねぇか…

クソがぁあああ」


断末魔の如きハゼルの叫びを背にしてシドが言い放つ。


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アルルカン 奇京 @Butterfly27

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