第15話 夾竹桃 危険な愛

 珍しいものを見つけたからと言って幸せになれるとは限らない。それがきっかけで不幸になる事だってあるのだ。小さい時は珍しいものを持っているだけで人気者になれたりもしたのだけれど、大人になるとそうもいかずに気味悪がられることも増えていた。

 もう少しで上手くいきそうな商談も、私がたまたま持っていたキーホルダーのせいで失敗したこともあるし、気難しいクライアントが私の万年筆を見て態度ががらりと変わって上手く行った事もある。

 結局、その時の運で何事も決まってしまうのかと思っていたけれど、それまでの過程で全て決まっていたような気もするので、運を天に任せるような事は出来るだけしないようにしていた。それでも、自分でどうしても決められない事は運に任せることもある。そんな時は失敗も成功も半々くらいの確率だったりするのでちょうどよい。


 私の妻は若い時から変わらずアクティブな性格で、夏になれば海や山に遊びに行っているし、冬は雪山登山などを行っている。何度かついていったりもしたのだけれど、運動不足な私は妻のペースに合わせることが出来ず、お互いに少しストレスが溜まるような感じになっている。

 そんな我が家にも待望の子供が産まれたのだけれど、ある程度子供が育つと妻はまた野山を駆けまわるような生活を時々行っていた。それでも、育児はちゃんとしているので私も子供も少しくらいなら我慢できたと思う。さすがに、何日も妻がいないと子供が不安になるのはわかっているので泊りで出かけることは無かった。

 私は休みの日に子供と過ごすことがほとんどだったのだけれど、妻は普段家にいる分外に出かけることが増えているように思えた。

 特に怪しい行動も無いのだけれど、何となく不安に思っていた。


 子供が幼稚園に入園しても小学校に入学しても中学校に入学してもそれは変わらなかった。

 私の妻は私の休みに日に家にいることはほとんど無くなっていた。


 中学生の娘は思春期になっているはずなのだけれど、私に反抗的な態度はとる事も無く親子の仲は周りの家族と比べても良好だった。

 娘は勉強も運動も得意なので進路は娘の意見を尊重しようと思っているのだけれど、妻とその事を話すことが出来ないので二人で決めていいのか悩んでしまった。

 娘は普段の妻には文句はないのだけれど、休みの日に家族三人でどこかに出かけたことが無いのは不満のようだった。娘はアウトドアには全く興味が無く、虫が出ただけでも大騒ぎするほどだった。


 そんな娘が修学旅行に行く事になったのだけれど、その時に合わせて有休を申請していたのだけれど、妻は私が休みをとっている事を知ってか知らずかどこかに出かける予定を立てていた。

 そうなると私も普通に家でゴロゴロしているのももったいなく思い、久しぶりに昔通っていたバーに行ってみる事にした。私が通っていた時とほとんど変わらない落ち着いた感じなのだけれど、客層は少し若めになっているように思えた。マスターは少し白髪が増えているように見えたけれど、奥にいる若いバーテンが遠くから見ていてもトークが上手なのがわかった。


「久しぶりに来たけど雰囲気は変わらないもんですね」

「そうですね。ご結婚されると夜に出歩くこともなかなか難しいですよね」

「ええ、我が家は私よりも妻の方が出歩くことが多いんですけどね。アウトドアが趣味なモノなので仕方ないとは思うんですけど、家族三人で週末を過ごしてみたいなとは思ってたりしますね」

「昔と変わらないんですね。またお二人でいらしてくれたら嬉しいのですが、今日はお誘いにならなかったのですか?」

「一応誘ってはみたのですが、疲れて寝たいと言ってたのでそのまま出てきました」

「じゃあ、今夜はお早めにお帰りになりますか?」

「いや、今日は遅くまで飲んでいたい気分なんでね。娘から修学旅行の写真も送られてきているし、それを肴に飲もうかと思ってるんですよ」

「それは結構な事ですね。それでは今夜はゆっくりとお楽しみくださいませ」


 娘の送ってくれた写真を見ていると、近くに座っていた女性が私に話しかけてきた。

 若い女性と話をするのは久しぶりだったので少し緊張したけれど、それなりに楽しく過ごすことが出来た。写真が趣味だそうで今まで撮ってきた写真を見せてもらったけれど、どれも見やすくて目的がはっきりとわかる素敵な写真だと思った。

 私は仕事以外で写真を撮る事は無いので見せることは出来ないけれど、娘が送ってくれた写真を見せてみる事にした。娘の写真を見てもらった感想はとても好意的なモノで私も誇らしく思ってしまった。

 女性はその写真を送って欲しいというので送る事にしたのだけれど、そのために連絡先を交換する事には少し抵抗があった。妻に悪いというよりも娘を使っているように思えて罪悪感が拭えなかった。


 その後に少し話をして女性は帰っていったのだけれど、そのすぐ後にメッセージが届いていた。私はそれに返事を返していたのだけれど、すぐに返事が返ってきて辞め時がわからなかった。

 そんな事をしていると、あっという間に時間は過ぎてしまってそろそろ日付が変わりそうになっていた。私はそのまま会計を済ませると、二件目には向かわずにそのまま家に帰る事にした。

 妻はまだ起きていたようで、私が帰宅すると一緒に一杯だけお酒を飲んでから寝る事にした。妻も飲みに行きたかったのかもしれないけれど、私が妻の趣味に付き合わないように妻も私の趣味の領域には踏み込んでこないのかもしれない。趣味と言っても十何年も言っていなかったのだから良いとは思うのだけれど。


 翌日も有休をとっているのでゆっくり昼近くまで寝ていたのだけれど、目が覚めた時には妻はどこかへ出かけているようだった。

 携帯には妻と娘からメッセージが届いていた。それとは別に昨日の女性からも着ていた。


 それぞれに返事を返してコーヒーを飲んでいたのだけれど、妻と娘からは返事は返ってこなかったのに女性からはすぐに返ってきていた。

 女性からのメッセージには不思議な話が書いてあったのだけれど、どこかの家に行くと種を蒔いてない植木鉢の中から芽が出る不思議な土が貰えるらしい。その場所を知っていたら教えて欲しいと言われたのだけれど、私はその話を初めて聞いたので答えることは出来なかった。何となく娘に聞いてみると、その場所はわかったのだけれどイマイチ具体性にかけてしまっている気がする。


 その事を知った女性は凄く嬉しそうにしていたみたいだ。さっそくそこに行ってみるとの事だったのだけれど、次に返事が来た時には写真が添付されていた。

 その日以来女性とはやり取りをしていないんだけど、修学旅行から帰ってきた娘は不思議な土が欲しいらしく、一緒に貰いに行く事にした。


 思っていたよりもあっさりと土が貰えたのだけれど、娘と一緒に育てるのは楽しかった。育てると言っても水を撒く程度なのだけれど。


一緒に育てていても生育にばらつきは出るようで、娘の植木鉢の花が咲きそうなときに私の植木鉢に芽が出てきた。


その芽が育つとピンク色の綺麗な花が咲いていた。それを見ていた娘が少しだけ悲しい目をしていた。


「その花が咲いたらあのお姉さん達に連絡しないといけないね」

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君影草 釧路太郎 @Kushirotaro

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