あまりうまくない料理

 どうにも上手く燃えてくれない炭を前に腕組みをする。

 べつに不器用なわけではないはずだが、だだっ広い原っぱで慣れない道具を使うとなると、多少の工夫が必要になるようだ。


 かんかんと響く食器の音は、つまみの催促だ。ため息をつきそうになるが、頭を振って気を取り直す。


 あいつの手際を良く見ていなかったことが悔やまれる。


     ◇


 俺は父親の足跡を辿る旅に出る前に、先輩冒険者の元で一人旅の心得を学ぶことを選択した。

 かつての仲間たちからは何となく馬鹿だと思われていたようだが、その程度の知恵は回る。


 思いつきのような依頼だったが、先輩二人は快く引き受けてくれた。本当に面倒見の良い人たちだ。

 何処かの誰かは口調こそ丁寧だったが、内心では一体何を考えていたんだか。


 そんなわけで、先日冒険者を引退した少年に代わって、先輩たちに面倒を見てもらう修行の日々を送っている。

 模擬戦闘では既に全く問題ないとのお墨付きを得ているが、索敵や野営時の雑務などの評価は散々だ。


 ……催促が激しくなってきた。諦めて救援を求めることにする。


     ◇


 ようやく出来上がったスープを、三人で輪になってすする。

 いつか口にした料理と材料は変わらないはずだが、どうにもうまくない。味付けが下手なせいか、顔ぶれが変わったせいか。


 椀を見つめて悩む俺に、気を遣った先輩のひとりが慰めの言葉を投げかける。


「あいつほどうまく出来なくてもしょうがないだろう。あいつは特別だ」


 その点であいつに張り合うつもりはない。ないが……他の点では負けたくないという思いが強いのは事実だ。

 模擬戦闘では大きく勝ち越しているし、仮に本気でやり合ったとしても十中八九俺が勝つだろう。ただ……どうにもすんなり終わりそうにないのだ。

 あいつの強みについて、周囲の人間は機転だとか手札の多さだとか言っているが、俺はどうにかして手札を捻り出す諦めの悪さだと思っている。


 仲間として行動していた時にはさほど意識していなかったが、離れてみるとついつい自分とあいつを比較してしまう。


「それとも、嬢ちゃんのことを思い出しているのか?」


 でかい笑い声を上げるのは、もう一人の先輩。


 正直、惹かれていたのは事実だ。仲間内で色恋沙汰の問題を起こす気はなかったので何もしなかったが、最後の辺り微妙に良い雰囲気になったことは自覚している。

 ……実は、離れたことを少しだけ後悔している。


 しかし、俺には一応の目的があるし、何も成し遂げないままにあいつについて行くのは何か違うと思ったのだ。


「たしかに、あの踏み込みの際の尻は……」


 真面目な顔をして下品な自説を語り出す先輩その一。まぁ、男ばかりが集まれば、こういう話題になるのも仕方がない。


     ◇


 当然始まるお決まりの論争を聞き流しながら考える。

 ……そういえば、あいつはどっちもしっかり鑑賞していやがった。俺が咎める道理などないのだが、何だか無性に腹が立ってきた。


 旅に出たところで父親の過去を知ることが出来るのかは分からない。とりあえずの目標は、あいつと再会した折に思いっきりぶちのめしてやることにする。


 あいつにとっては訳が分からないことだろうが、俺の知ったことではない。

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