幕間

宴の傍で

「本気か、お前!殺す気かよ?!」


「そうだ!お前を殺す為に、わたしは……」


 何やら物騒な言葉が飛び交っているが、事情を知る者からすれば微笑ましいじゃれ合いにしか見えない。

 とても付き合っていられないので、唖然とするセレステ嬢……嬢?を残して階下に向かう。


     ◇


 階段を降り、少し廊下を歩けば、そこは食堂のような空間だ。

 ここは弟君の襲撃対策と併せて、来るべき日の予行演習として建造した施設だが……些か張り切り過ぎて規模が大きくなってしまった。

 まぁ金主の求めに従った結果なので、私が気にする必要はない。


 入口近くの席に着くと、帽子の少年が素早く茶を出してくれた。

 元冒険者の彼は、将来幼馴染の少女と店を持つために姫様の手伝いに志願した気骨ある少年だ。

 何処かの誰かも、彼の薫陶を受けるべきだと思う。


     ◇


 少し離れたテーブルでは、三人の冒険者が酒を片手に話し込んでいる。一人は新顔のはずだが、早くも打ち解けたようだ。

 おそらく、なし崩しで姫様のお仲間内に入るのだろう。


 私も酒を頼もうと少年の姿を目で追っていると、我らが金主の姫様が現れた。随分と大活躍なさったようだが、お疲れの様子は一切ない。

 こちらとあちらのテーブルをしばし見比べたのち、私の向かいの席に着かれる。


「『アレ』は中々いい具合でしたよ」


 先日納品させていただいた『アレ』。一応つけた正式名称を呼ぶ者はアリサ嬢だけだ。

 姫様が思わず受け取りを悩むような見た目の『アレ』だが、性能については神器の名に相応しい仕上がりだと自負している。

 現状では魔力の蓄積、魔術行使の補助、形状の変化の三つの機能しか組み込めていないが、秘めたる成長性は無限大だ。

 ……いずれ、多くの人々を救う(笑)に違いない。


「私のほうの『アレ』も、上々の結果でしたよ。効果のほうは確認済みでしたし、拡散具合と持続性についても想定以上です。兵器としての運用には、何の問題もありません」


 悪魔の兵器の話題にも、にっこりと穏やかな笑みを浮かべる姫様。


「それは重畳です。とはいえ、本来の用途は資金源と権力者向けの交渉材料です。今後のことを考えると、いくら手があっても足りませんから」


 各方面から目を付けられている姫様が打開策として打ち出したのは、辺境に自身の拠点を築くというもの。

 拠点を作るだけならば、金にものを言わせれば何とかなる。だが、それを維持していくとなると、持続的な収入源と相応の政治力が不可欠なのだ。


「そちらは、引き続き頑張っていただくとして……今回の襲撃、やはり公国も一枚噛んでいたようですよ。アリサが捕らえた男は何も喋りませんでしたが、あちらの方は快く話してくれました」


 賢明な判断だ。この姫様に逆らうなど、とんでもないことだ。

 しかし、姫様も大変だ。自分の身を守るつもりが、思い切り政争に巻き込まれている。

 ……まぁその割には毎日楽しそうだが。


 いまいち興味が湧かない政治の話を真剣な顔をして聞き流す。私は面白いものが作れさえすれば、他のことはどうでもいいのだ。


     ◇


 話が終わると、姫様は向こうのテーブルに移っていった。

 ちょうど少年が近くに来たので、私も酒を注文する。一応、襲撃を受けている最中なのだが、もはや誰も気にしていない。


 どうせなら久しぶりに彼と飲もうと酒瓶片手に上階に戻るが……まだやっているのか。

 仕方がないので、頬杖をつくセレステ嬢の隣に腰を下ろす。


「相棒、取られてしまったね」


 打ち解けるための軽口のつもりだったが、当のセレステ嬢は肩を竦めるばかり。


「……あれは、仕方ないわね」


 存外に本気だったのだろうか。こういう時は無理に慰めるより……


「ここにはいないが、姫様のお仲間内にひとり、渋い男前がいてね……」

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