幕間

最近の日課

 腕いっぱいに抱えたお土産。わたしがぺこりと頭を下げると、見送りの面々が黙って手を振ってくれた。

 最初は随分びっくりしたけれど、見慣れてくれば何だか可愛い。

 

 彼らの姿が見えなくなると、床に腰を下ろして脚を投げ出す。行儀は悪いが、さすがに今日は頑張り過ぎたので勘弁して欲しい。

 ここのところ、仕事がないときにはいつもここに通っている。身体は辛いが、怠けるわけにはいかない。

 今のわたしには、決して譲れない目的があるのだ。


     ◇


 硝子越しに流れる景色を眺める。遥か彼方まで広がる神代遺跡の不思議な光。網目のような管の上を生き物のようにくるくると走り回る様は、まるで王都の雑踏のよう。

 お父さんもこんな光景を見ていたのだろうか。


 ……お父さんと言えば、そう。我ながら気持ち悪いとは思うが、わたしの好みはお父さんのように大人の色気漂う渋い歳上の男なのだ。

 だけど……誠に、誠に不本意なことに、今のわたしは一人のぱっとしない歳下の男に振り回されている。


 中肉中背のいまいちやる気を感じさせない顔。素っ気ない振りをするくせに、妙に優しい中途半端なあいつ。

 自分でもどうしてなのかさっぱり分からないけれど……何故か一緒にいたいと思ってしまったのだ。

 本当に腹立たしい。


     ◇


「お帰りなさい、ダナちゃん。今日は一人なのね」


 いつものように、地上で出迎えてくれたのはペトゥラさん。優しいお婆さんだけど、実は滅茶苦茶に強い。


 ここは王都のなかの秘密の遺跡の秘密の出入口。ペトゥラさんを始め、限られた人間しか知らない。

 ここのことを知った姫様は、教会にも報告せずに調査を開始した。それに付き添ったわたしは、突然現れた虎男にひょいと担がれて攫われてしまったのだ。

 そのままわたしもあいつと同じ道を辿るのかと思われたのだけれど、不思議なことに下にも置かぬおもてなしを受けた。どうもお父さんの形見である四つ星の腕輪のおかげらしい。

 出入りは自由。賭けてもいいし、自分で戦ってもいい。同伴者を連れてきてもいいという厚遇ぶり。

 わたしは沢山のお土産を持たされてあっさり解放される。その話を聞いた姫様は、ここを自身の勢力の鍛錬の場として使うことを決めた。


 以来、わたしやアリサは暇さえあればここに通って腕を磨いている。そんなわたしは早くも第二階級。全裸で必死に戦っていたあいつを想像すると、思わず笑みが溢れる。

 いい気味だ。


     ◇


 姫様の屋敷に戻る前に、ペトゥラさんの部屋で少し休憩。美味しいお茶とお土産のお菓子をいただく。


「本当に毎日よく頑張るわね。そんなに追いつきたいの?」


 テーブルの向かいでペトゥラさんがにやにやしているが、そんなに甘ったるいものじゃない。


 気持ちを伝えるどころか異性と認識されているかすら怪しいので、大きな期待を持つのは間違いなのは分かっている。

 行方不明と聞いて気を揉んでいたところに届いた事務的な生存報告……無事だったのなら、まぁ構わない。

 そのうち顔を出す、という結びの言葉……わたしにあいつの行動を縛る権利なんてないのだから、まぁ仕方がない。

 だけど、便箋に余白があるからといって似顔絵を描くのは、まともな大人がやることじゃないだろう。

 ……わたしの頭はそんなに大きくない!


 ペトゥラさんの追及から逃れるように窓のほうを見ると、ちょうど夕日が沈むところだった。


「……死ね!」


 もはや日課となった呪詛の言葉を吐く。一発、二発で済ませるわけにはいかない。

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