第26話:将来の記録、最後の指令(終)
こうして私たちの物語が学園に提出された。
皆の物語は衝撃を受けた人が多く、人の口に戸は立てられぬという言葉通りに世界中に広がっていった。
『魔王はもう居ない』
『勇者があんまり活躍していない』
『王都にやべー女がいる』
といったあることないことが自由に尾ひれをつけて広まっていく。
勇者についてはとばっちりではあるが……実際たいしたことはしていないので良しとしよう……
そして四人は無事全員卒業をした。
――タルト
「あんたねえ……自分が何をしたか分かってるの? 世界を変えたのにわざわざこんな山奥まで戻ってきて……」
小言を言うタルトの母親だがその声は少しやさしい色を含んでいる。
「自慢の娘だぞ、お前は!」
父親の方は娘があまりにも大きいことをしでかしたせいで現実に追いつけなかったが、次第にそれを認めてタルトを一族の誇りと言ってはばからなかった。
そうしてあの魔界での生活は多少の変化を三人にもたらした。
タルトの場合……
「あんた! どこでそんな魔法覚えたの!」
「おーい! タルトちゃん! こっちの整地も頼むよ」
「タルト! ウチの畑を耕してくれ!」
タルトは魔界で魔力に晒され魔法使いとしては結構な強さとなった。
本人はたいしたことはできないと言っているが、その標準の基準がウィルである。
普通の人からすればとんでもない魔力を村の雑用に使っていた。
風魔法で雑草を刈ったり、土魔法で畑を耕したり、水が足りなければ雨を降らせたり……
それはもう、王宮の魔術師が見たら卒倒しそうな無駄遣いをしていた。
とはいえ、村が豊かになるに連れて、村の人口は徐々に増えつつあった。
世界を変えた一人が最終的に変えたのは自分の故郷だった。
未だに貴族や王の親族や王自信家らさえ召し抱えたいと希望は来るが全て断っている。
一般人がそんなことをすれば大量の怒りを集めてしょっ引かれる可能性もあるのだが、いかんせん彼女のバックにウィルが付いているということで誰も強硬手段に出ることはなかった。
そうして何年も経った後、彼女は村長になり村はそれなりに反映するのだったら。
――フロル
フロルは冒険に出ていた。
彼女はもらったドラゴンの鱗を剣に加工してそれをトレードマークに冒険者の集団を作り、リーダーとなっていた。
フロルの多少自由すぎる性格が団員を振り回していたが、持ち前の強さに魔界での魔力を浴びたこともあり、身体能力でゴリ押しする戦い方で皆を率いていた。
「リーダー! でかいサルの化け物が……」
「はいよ!」
ざしゅ
「リーダー! 今度はグリフォンが……」
「任せて!」
サクッ
とまあとんでもない化け物を相手に勝ちを重ね、国家間でも無視できない規模の集団になってきた。
フロルを中心にした集団は後に「冒険者ギルド」と呼ばれ、人類未到の地をどんどん切り開き、世界の地図は倍以上に広がった。
そうしてフロルは後に「最強の冒険者」と評判になり、彼女の像がどこの冒険者ギルドにも設置されている。
名誉なことではあるのだが彼女自身は「私こんなにムキムキじゃないよ! 作り直しを希望する!」と言っていたが、まあこの方が本物の少女より威厳がよほどあるということで公式になった。
後の世で彼女の像がレポートと随分違うことが議論に上がったが「盛ってる」ということで彼女の姿は屈強な騎士として歴史に残るのだった。
――アン・チェンバーズ
彼女は世界を変えたレポートを書いた本人と言うことで、発表後しばらくの間手厚い保護の元におかれた。
両親は「魔界に行ってくる」というメッセージをみて死んだものと思っていた娘が生きていたことで狂喜乱舞していた。
当然、相談せず魔界に行ったことで大目玉を食らったのは言うまでもない。
彼女を解放するかはかなり議論の対象となり、全てを闇に葬るべきと言う派閥もいたが、そのレポートが真実だとしたら……彼女の後ろには恐ろしい少女がいて……というわけで事実なら危ないし、嘘なら解放して構わない、ということで彼女は無事自由の身となった。
そうして王族との縁談等もあったのだが、彼女は魔界での暮らしの中で魔法を使えるようになっており、相手の方が圧倒的に強い、ということで長らく縁談が途絶えたこともあった。
結局平凡な貴族の青年と恋に落ち婚約して貴族としては平凡な生活を送った。
実は家柄も身分も十分と言うことで勇者との縁談もあったのだが、まあレポートの内容が内容だったのでしっかりとお断りが届いたのだった。
彼女は貴族だっただけに一番出世し、最終的に王女となるがそれはまだ先の話……
――ウィル
私はこの世界に翻弄されてきた、世界を憎むようなことはなかったが、生きることに目的を持てず世界をさまようことになった。
暫く後、私は天涯孤独な危険人物と言うことで狙われたりしたが、まあ案の定刺客が弱かったので殺すことすらせずトラウマを植え付けて派遣元に送り返した。
それを数回繰り返した後、彼女の暗殺は不可能と表も裏の世界も彼女を諦めた。
そうして彼女はノートを手に世界を調べていった。
冒険者ギルドがまだ到達しない暗黒の地や、魔界の未到達地区等まであらゆる世界を回っていった。
そして皆が世間で役目を背負って学園での暮らしも思い出となっていた頃、私はまだ「少女」だった。
どうやら世界は私を休ませるつもりはさらさらないらしい……
この人使いの荒い世界を大量に変えてようやくお役御免となり、面倒な刺客もすっかり送られてくることがなくなった未来の話。
――センセイ
「センセイ、この歴史って本当なんですか?」
「それはあなたたちが確かめることです……大丈夫……世界は「それなりに」優しいですよ」
そう、それなりに、だ。
世界に全てを受け入れるような包容力はない、ただ弾圧をするほど心が狭くも無いのだ。
「センセイ! なんか教科書に載っている肖像画とセンセイって似てませんか?」
「ええ、実は私がその物語のモデルなんですよ」
生徒が私の持ちネタに一斉に笑う。
「センセイは何歳なんですか?」
「女の子に年を聞くものではないですよ?」
そうごまかし、またこの子達が一斉に笑う。
ここは平和なEクラス、そして私はそのクラスのセンセイ。
「センセイ、今度Eクラスが復帰するんですよ」
その嬉しい知らせは古い友人からだった。
私は一も二もなくその話を受けた。
そうしてセンセイとなった。
皆と会わなくなって久しいが、私はいつも彼女たちを感じながら生きていた。
そうして幾年もたち、私たちが歴史に埋もれてきた頃、ノートが起動した。
私はなぜ今になって過去の記憶が私を呼ぶのか分からなかったが、その画面に映っている文字を見て、長らく使っていなかった「実行」を押した。
――みんな
「久しぶりだね!」
「ウィルさんは何時まで経っても女の子なんですねえ……」
「いや、私たちもかなり若いと思っていたが本当に変わらないなあ……」
「最近寝起きが辛かったり腰が痛かったり肩が痛かったりするのにな……」
「私は無いですね」
「私も無い」
「二人とも裏切りましたね! せっかく普通の人側だと思ってましたのに!」
「だって私は毎日体を動かしてるからね、アンは貴族やってるから体がなまってるんじゃない?」
「私は魔力をよほど使わないと次の日までには自動で回復しちゃいますね……」
「タルトは魔力をしょうも無いことに使いすぎです! 王都からまであなたの村への移住希望が出るんですよ!」
「そういや、私のギルドにも貴族の身分捨てて参加する人が結構いるんだよね……本気でやるならいいんだけど箔をつける目的の人もいてねえ……」
「それはなんというか……貴族を代表して謝罪しますわ」
「いやまあ謝って欲しいわけじゃ無いんだけどね」
「まあまあ、久しぶりに会ったんだから仲良くしようよ」
「非常識の塊が常識を語りますか!」
「え!? 私は悪くないでしょ!」
「ずるい……」
「タルトの言う通りだ! 一人だけ若いとかズルいよ!」
「えー、人を見た目で判断しないでよ!」
「私はそこまで熱くなれるほどの若ささえ無いですね」
「みんなさー! 久しぶりの再会だよ! もっと仲良くしようよ!」
「まったく、大体の原因があなたなんですよ! その自覚はあるんですか!」
「まあでも、悪くはないね。年を取るのだっていいこともあるよ……」
タルトがこぼすが私は聞き捨てならない。
「あ! 私一人がいつまでもちんちくりんだからって年上アピールですか? 私はあなたたちより年上ですよ!」
「まあそうなんでしょうけど……」
「魔王の討伐年とか調べたらそうなるよねえ……」
「あっ!? いえいえ私などまだまだ若輩者で……」
「今更若人ぶらないでください、嫌みを通り越して不気味です!」
どうやら私という存在は世間にとって非常識らしいと知ったのも随分と前のことだ。
最近教え子が「ろりばばあ」なるあだ名を私につけていたがどういう意味だろうか?
「何はともあれ四人の再会を祝して!」
「「「「乾杯!」」」」
――ノート
私の残した文はたった一つ。
論理的には十分可能だけれど可能性は限りなく低いたった一つの簡潔な文。
「私たち四人が街角でばったり会う」
そして私は当分押されることの無くなるであろう「実行」を押されたのだった。
大魔法使い、魔王の居ない世界で学生生活を送る スカイレイク @Clarkdale
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