第6回 平尾丈さんの話
未來たちは少し休憩した後、次なるプレゼンターの待つ教室へと移動した。
「はじめまして、佐藤未來です。よろしくお願いします」
「株式会社じげん 代表取締役の平尾丈と申します。よろしくお願いします」
ミネルバ曰く企業家だという彼は、2005年にSFCを卒業したらしい。
「今日は、起業について色々とお話しできればと思ってます」
平尾さんはそう言った。未來が知りたかった起業の魅力についても、答えが得られるかもしれない。
「じげんという企業では、どのようなことを大切にしているんですか?」
より革新的なことが知れるかもしれないと考えて、未來は質問の仕方を変えてみた。
「私たちの目標は、一言でいえば生活機会の最大化です。生活機会というのは、より良い人生を送るための選択肢と考えてください。私たちは情報サイトの提供などを行っているのですが、情報を届けたいと思っている企業側、そして情報を手に入れたいと思っている消費者側のマッチングのようなものです」
「なるほど……たくさんあって収集のつかない情報を、整理して届けるということでしょうか」
確かに、得たい情報を効率よく手にできるというのは画期的だ。
「そうですね。私たちは、社会の問題を
平尾さんの事業というのも、やはり興味深い。先ほどの柳澤さんは自分が面白がったり、社会を面白くすることを目指していたが、それとはまた違ったテイストだ。
「平尾さんは、学生時代から起業を志していたのですか?」
「はい。そもそもSFCに入学したのも、IT社長になりたいという思いがあったからなので」
未來はコンテクストデザイナーの渡邉さんの話を思い出していた。彼は、弱い意志と偶然によって今の自分があると語っていたが、平尾さんの場合は『強い意志』の人なのかもしれない。本当に、SFCには色々な人がいるんだなあ。
「実は、これまでにお話を伺ったプレゼンターの方々も起業されていることが多かったです。平尾さんは、起業というものにどのような魅力を感じているのですか?」
「私は、起業の魅力は『三つのC』という言葉で表せると思っているんですよ」
未來は頭を捻って考えてみたが、三つのCと言われて出てくるのは「カイロ・ケープタウン・カルカッタ」だけだ。
「三つのCとは『Change』『Challenge』『Chance』のことです」
「なるほど。それぞれの内容を具体的に教えてください」
未來は気づいた。頭文字「C」だけでなく、二文字目の「H」、そして三文字目の「A」までが奇跡的に揃っていることに。これはもはや、「三つのCha」でいいのではないのか?
「Changeというのは、世の中を主体的に変えることができるということを意味しています。Challengeは、仲間と共にダイナミックな挑戦ができるということ。そしてChanceには、
人生の選択肢や可能性を広げることができるという意味が込められています」
・世の中を変える『Change』
・ダイナミックな挑戦ができる『Challenge』
・人生の新たな可能性『Chance』
この三つが、起業に秘められた魅力なのだ。聞いているだけで起業したくなるほどだ。
「平尾さんは、学生時代に何か特別なことをされていたんですか?」
未來はこれまでのようにそう尋ねてみた。
「特別なことかどうかはわかりませんが、インプットとアウトプットというのは意識していました。学生時代からビジネスを立ち上げていましたし、多くの社会人に出会い、そこでプレゼンすることでアウトプットの機会を多く確保してましたね」
「アウトプット、ですか」
日本語に訳すと、出力だ。つまり、自分の持っている知識や経験を、外へ引き出すということだろう。
「はい。営業活動や企画提案、仲間との会議など、学外に出ての活動が多かったですね」
「なるほど。起業をするには、そのような準備が必要なんですね」
未來はふと窓の外を見た。すでに太陽は西に傾き、夕暮れ時が近づいている。話を聞くのに夢中になりすぎて、時間が経つのをまるっきり忘れていた。
「私は、起業家には必要なマインドがいくつかあると考えています。まずは当事者意識ですね」
その言葉がくることを、未來はなんとなく予想していた。柳澤さんが話していた、『主体的に関わる』というキーワードを思い出したからだ。
「そして、リーダーシップ」
これはなんとなく納得がいく。自分がリーダーになってやろうという気概がなければ、そもそも起業家は務まらないからだ。
「最後に、圧倒的なエネルギー量です」
はじめたことを最後までやり遂げるスタミナも重要なのだ。そういえば、柳澤さんは『筋トレ』と言っていたが、それと同じだろうか。
「一番重要なのは、とにかく行動を起こしてみるということです。はじめのうちはたくさん失敗するでしょうが、それが大事。若いうちは失敗しても立ち直りも早いですよ。夢が見つかったなら、それにむけて一歩踏み出してみましょう」
2100年 水色 @mizuiro-sfc
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